スキー場もサブスクで楽しむ時代へ。全国30スキー場定額パス「アースホッパー」に迫る(前編)

by flumen編集部
スキー場もサブスクで楽しむ時代へ。全国30スキー場定額パス「アースホッパー」に迫る(前編)

2021年冬、日本全国30箇所のスキー場で2回ずつ使える共通リフト券「アースホッパーSNOW」の登場がスノー業界を賑わせた。

6回行けば元が取れる価格設定がSNSで話題になり、あちこち回りたいタイプのスキーヤー・スノーボーダーに評価された。熱量の高いユーザーたちの交流が盛り上がり、独自のコミュニティを形成してきた。

2シーズン目はサービス名称から“SNOW”が外れ、スキー場が提供するマウンテンバイクなどグリーンシーズンの遊びもカバー。通年型パスとして2022年6月末にリリースすると、早すぎる発表に戸惑う声や、スキー場ラインナップの変化への意見が飛び交い、またしても話題に。

アースホッパー」は単なるお得なリフト券パッケージではなかった。“地球をホッピングするように”遊び回る新しいライフスタイルを提案し、インバウンド客減少や雪不足に苦しむスノー産業の課題解決もねらっている。

スキー場をサブスク型で楽しむという発想の原点は? 30箇所のスキー場はどう集めた? 裏側はどんな仕組み? まずはユーザーとして気になる点から、アースホッパーの運営元・株式会社Pioneerwork代表取締役 後藤陽一氏 @YoichiGoto に話を聞いた。

【後編】地球の年パス「アースホッパー」が描く、自然のフィールドと人間の関係性(後編)

後藤 陽一(ごとう よういち)/ 株式会社Pioneerwork 代表取締役
京都大学工学部卒業後、同大学経営管理大学院修士課程およびスイス・ローザンヌ大大学院にてスポーツマーケティングを学び、2011年株式会社電通入社。地方テレビ局、自動車メーカーを担当後、電通総研にてエクストリームスポーツ特任リサーチャーとして、企業や自治体のアドバイザリーを手がける。国連世界観光機関(UNWTO)パネリスト(2015)。
2014年より、スイス・ローザンヌに本部のあるフリーライドスキー・スノーボードの国際競技連盟Freeride World Tourのアジア地区統括。長野県白馬村へアジア初の大会の誘致に成功。4年で4道県で11のイベントに300人の日本人選手が参戦するツアーに成長させる。


「知らないスキー場と出会えるパス」 足を伸ばす最後のひと押しに

日本には元々、各スキー場が独自に発行する「シーズンパス」というものがある。数万円出して購入すれば、そのスキー場がシーズン中ずっと滑り放題。最近では複数のスキー場をまたいだパスも出ているが、各スキー場2回までと上限を設けるかわりに30箇所もカバーして価格を下げる、という形は斬新だった。

冬前の10月にリリースすると、誰が見ても“バズった”といえる反響があり、注目され続けていたアースホッパー。初シーズンを終えて早々にシーズン2の発表をした今の率直な思いを聞いてみた。

──アースホッパーを出して初めてのウィンターシーズン、感触はどうでしたか?

かなり話題にもしてもらって、これから3年、5年とサービスを続けていく道筋が見えたという点では及第点かな。「シーズンパスを持つ」という遊び方って、今までは特定のスキー場に何度も通う超コアな人だけがやるものだったけど、そのボーダーラインを下げたことで新しい層に届けられた。その点はよかったと思ってます。

──新しいコンセプトの商品だから、まず理解してもらうところからですよね。

そうだね。スキー場からは「こんなに売れると思わなかった」って言われる。しかもユーザーアンケートを取ったら、「初めて、或いは3年以上ぶりのスキー場への訪問」の回答数が多くて、新規スキー場来場率が約54%だったんだよね。

「アースホッパーがなければここのスキー場に来てなかった」という人が半分以上ということだから、その点はスキー場からも評価してもらえてる。

定額スノーパスという新しいコンセプト

──新しいスキー場に行ってもらえる仕組みづくりも、狙っていたところなんですよね?

もちろん、単に安く滑ってほしいわけではなくて、知らなかったスキー場との出会いだったり、新しい価値を生み出すことを最初から目指して作ってます。最終的には、地球の遊びをサブスクで楽しむという考え方を当たり前にしていきたいんだよね。

──昨シーズンはどんなお客さんが印象的でしたか?

最初のシーズンということもあって、基本的には普段からシーズン券を買うようなコアなスキーヤー・スノーボーダーが大半だったけど、「毎年滑りには行くけど、今シーズンはいつもより全然多く行った」というユーザーが多かった。一回買っちゃうと使わないともったいないから、「今週末なにしようかな」というときに、まずアースホッパーの提携スキー場から行き先を考えてもらえた。

──チケットありきで行き先を選んでいく。発想の順番を変えているんですね。

今年は雪が多かったこともあって、なんとなく「行きたいな、気になるな」と思っていた遠くのスキー場に足を伸ばしてもらうきっかけになれたと思う。関東在住のユーザーからは、東北方面の安比や夏油高原なんかはアースホッパーがなければ行かなかったという声も多いし。「アースホッパーあるし、行ってみよう!」と、最後のひと押しができたのはよかったかな。


海外の共通パスから着想。アースホッパーの原点

発想の原点は、2018年頃まで遡る。運営者の後藤さんは当時、スイス発祥のスキー・スノーボードのフリーライド大会「Freeride World Tour(FWT)」の日本誘致に取り組んでいた。その活動を通して海外のスキー場事情に精通していく中で、日本には海外のような広域の共通シーズンパスがないことに疑問を抱いた。

広告代理店時代からフリーライド大会の誘致に奔走

──パスの構想を思いついたのは、FWTがあったから?

そうだね。FWTもアースホッパーも、日本の雪山の魅力をもっと海外の人にも知ってもらいたいという同じ気持ちでやっている。昔の企画書にもアースホッパーに近いアイデアは既にあって、日本のスキー場を連携させていきたいとずっと考えてた。

──北米のEpic Pass(エピック・パス)*のような共通パスを参考にしたんですよね。

2018-19シーズンに白馬バレーが加わったときにEpic Passについてちゃんと知ったんだけど、日本のスノーリゾートとして初めての提携に、白馬の人たちがすごい喜んでたんだよね。

素晴らしいことだと思うんだけど、それを聞いて「アメリカの人が作った仕組みに乗っかっているだけで良いのかな」と思って。当時は2022年の冬季北京五輪も控えていて、これから世界最大のスノーマーケットは間違いなくアジアになるというタイミング。欧米のスキー場と比べて日本は明らかに地理的に優位で雪質のバラエティも豊富で、観光という点でもアドバンテージが大きい。チームジャパンで手を組んでプロモーションしていくべきだよな、と。

Epic Pass公式サイトより

*Epic Pass=アメリカの山岳リゾート会社Vail Resorts(ベイル・リゾーツ)が2009年頃から販売している共通パス。北米をはじめとした8カ国のスキー場66箇所が無制限で滑れる。

──本当にそうですね。でもEpic Passって、基本的には同じ運営会社のスキー場を束ねている共通パスなんですよね?

いい質問ですね(笑) だからアースホッパーは、スイスのMagic Pass(マジック・パス)ていう商品を参考にしてる。こっちは運営元がバラバラの30箇所のスキー場が滑り放題。でもその代わり提携スキー場はMagic Passの親会社の株主になった上で、独自に出しているシーズンパスを廃止しないといけない仕組みなのが、根本的に違うんだけど。

──株主になる必要があるんですね。海外のパスは、お客さんが安く滑れてスキー場も儲かるためのシステムという感じがします。

そうだね。アースホッパーは代理販売方式だから、Epic PassやMagic Passほどは広がらないかもしれない。でも新しい楽しみ方やライフスタイルを提案することが目的だから、日本・アジアの市場にとっての一番いい形を探しながら続けていきたいと思ってる。

Magic Pass公式サイトより


スキー場からの反応は? アースホッパーの裏側と実装の工夫

日本には大小含めて数百箇所のスキー場があるといわれる。それらを共通パスで結びつける発想自体は思いついても、システムを作るのはきっと難しい。アースホッパーはどんな工夫をしているのだろう? 実装に至るまでの工夫を聞いてみた。

──よく30箇所も提携スキー場を集めましたよね。元々FWTで繋がりがあったんですか?

半分は人づてで紹介してもらったけど、もう半分はお問い合わせフォームから直接アプローチしたよ(笑)60箇所くらいのスキー場に連絡して、コロナでどこも経営が厳しかったこともあって話は聞いてくれた。海外の成功事例を知ってる担当者さんは特に興味を持ってくれたね。

全国30箇所の提携スキー場リストは圧巻(20-21シーズン)

──スキー場からすると提携するリスクは少ない?

リスクはほとんどないように、1シーズン目は最低保証金額を設けて先にスキー場に支払うようにした。うちは創業2年目の小さな会社だし、ちゃんと本気ですよって示して信頼してもらうためにも、そこは必要だった。結果的に、どこのスキー場にもそれを上回る額を支払うことができた。

各スキー場のリフト券売り場でQRコードが読み取られた回数に応じて、総売上額をスキー場に分配するという仕組みで、詳しい比率は公開できないけど、全ての参加スキー場に公平になるように気をつけて調整してます。

──絶妙なバランスで成り立っていそうですね。世界的にスキー場の1日券の価格が値上がりする傾向がありますが、その影響は受けていますか?

今シーズンは値上げするスキー場が多そうで、アースホッパーとして影響がないわけではないね。でも個人的には1日券の値上げは良い傾向だと捉えていて。日本のスキー場に赤字が多い理由は、1日券が安すぎて過度にレジャー化しているからとも言われてるんだよね。シーズン券と1日券の価格差が縮まれば、アースホッパーのようなパスを買うハードルが下がって、ライフスタイルとして定着しやすくなると思うんだよね。

──テーマパークやレジャー施設の年パスに近いんですかね。

そういうレジャー系の年パスの価格比率も参考にしてる。既存のスキー場シーズン券は1日券の11〜16倍の値段するけど、水族館の年パスとかってせいぜい2〜5倍くらいなんだよね。1日券に対して高すぎるのもあって、日本ではシーズンパスでスキー場に来る人が全体の10%弱しかいなくて、この比率をもっと上げるべきだと思う。シーズンパスでお得に滑れれば、その分ホテルや飲食店にお金が落ちていくことにも繋がるし。

でもどちらかというと、レジャー施設よりスポーツジムの感覚に近いかな。さっき例に出したEpic Passは、参加スキー場のシーズンパスでの来場率を全体の75%まで上げるつもりらしい。日本のスポーツジムの月額会員比率が約85%といわれてるから、アメリカみたいにジム感覚で通うようになれば、スノーリゾートに行くことがライフスタイル化していくと思ってる。

──なるほど。私も今年アースホッパーを使っていましたが、窓口の方の対応もスムーズで驚きました。

新しいシステムの導入ってどうしても腰が重くなってしまうけど、日本にはレジや窓口でQRコードを読む動作が定着してるから、「PayPayと同じ感じで」と説明すればスタッフにもわかってもらえた。スキー場のコスト削減という点でも、説明動画を配ったりしてかなり力を入れてます。

窓口でQRコードを読み取るだけの簡単なシステムにこだわった


日本のスキー場を進化させ、アーススポーツの連鎖をつくる

アースホッパーの強みは、実はこのシステムにあるともいえる。スキー場訪問者の回数や頻度、居住地などのデータを取って、将来的にはスキー場の経営改善にも役立てようと画策している。ユーザーがどういう遊びを求めているかがわかれば、施設側の新しい遊びづくりに反映することができる。

──「アースホッパー」というからには、やっぱりあちこちのスキー場をホッピングしてもらうことを目指しているんですよね?

遊び方やライフスタイルを提案していきたいから、まずは毎年スキー場に行くような“アースホッパー”予備軍の人たちに、いろんな場所で新しい遊びを見つけてほしい。2シーズン目からマウンテンバイクやキャンプなどの遊びも加わったのにはそういう意図があって、違う季節や違うフィールドの遊びにもトライしてみてほしいんだよね。

今シーズンからBIKE、WAVE、CAMPのカテゴリが加わった

──私はスキー・スノーボードしかやりません! というユーザーからは、落胆の声もあるようですが。

その気持ちもわかるけど、アースホッパーとしての考え方はそっちじゃないって理解してもらえたら嬉しいな。昨年はパスを使い倒して20回も30回も滑りに行くユーザーもいたけど、全員がその使い方をしてしまったらスキー場に利益がいかないから、今年は回数制限の有無でプランを分けて、スキー場経営と折り合いがつくようにした。

それにスキー場がグリーンシーズンの営業を強化していくのはもう世界的な動きだから、1人の消費者としてもサービス提供者としても、その進化についていかないとと思うんだよね。スキーにしか興味がなくても、一回夏にも遊びに行ってみてほしい。

──通年リゾート化の流れがありますね。冬以外に遊びに行くことで業界に貢献できるならどんどん遊びたいところです。

アースホッパーの提携スキー場がグリーンシーズン営業を始めて、ユーザーが冬以外に行ってくれたら、彼らの動きをデータやアンケートで見てコンテンツ開発の参考にもできると思う。

日本のスキー場は今まさに進化していこうとしている段階。アジアにおいてこれだけ自然のアクティビティが豊富な国は日本しかないから、きっかけさえ与えられれば冬以外のアクティビティも含めて「アーススポーツ」というカテゴリで全部繋がっていくと思ってる。

──アーススポーツ。

地球をフィールドにして、旅するように自然を楽しむスポーツを「アーススポーツ」と呼んでます。スキーやスノーボード、サーフィン、マウンテンバイクなどはまさにアーススポーツで、そこへの入り口としてキャンプやグランピング、カヤックやSUPなどのライトなアクティビティも提供したい。自分から自然のほうに出向かなければできないのもポイントで、旅や観光がセットになるから地域活性化にも繋がると思ってる。

──そのフィールドとして大きい「スキー場」から始めたということなんですね。

そう。ヨーロッパとかでは、スキー場が率先して新しい遊びのコンテンツを作っていく動きがある。日本は雪質がよくて雪の量も多いからまだのんびりしてるけど、ヨーロッパのほうはもっと雪が少ないから切実だよ。向こうは危機感とかそういうステージは通り越して、グリーンシーズン強化はもう当たり前にみんなやってるんだよね。

──気候変動の影響もありますしね。では今後はもっと遊び方を増やしていくんですか?

これから雪不足がもっと深刻になる中、雪に依存しているスキー場から潰れていってしまうのは明らか。日本もスキー場同士が手を組んで、新しい遊び方を提供していかないといけないよね。

シーズン2以降は、提携スキー場の数を極端には増やさず、今アースホッパーの目指す世界観に賛同してくれているスキー場さんたちと一緒に、遊びのラインナップやレンタルとの組み合わせ方、季節ごとのコンテンツなどを強化していきたい。アースホッパーと提携することで、具体的なメリットがあると思ってもらえる仕組みをつくっていきたいね。(後編に続く)

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地球をフィールドにした遊び方やライフスタイルを提案するアースホッパー。スキー場も遊び手も一緒に育っていくような、きちんと価値を生むコミュニティづくりを目指している。後編では、アーススポーツを通して実現できる「進化」とは何か、新しいエンタメを提供するということ、地球を攻略したいという人間の根源的欲求について話を聞いていく。

【後編】地球の年パス「アースホッパー」が描く、自然のフィールドと人間の関係性(後編)

アースホッパー公式サイト https://www.hopper.earth/

アースホッパー公式SNS TwitterInstagramFacebook

プレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000058215.html

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