雪が減り続けるこの地球で、スノーコミュニティから何ができるのだろう

by flumen編集部

雪が減っている。お手上げなくらい減っている。気候変動や地球温暖化を甘く見ていた人たちも、さすがに目が覚めるシーズンだ。

3月上旬からすでにGW並みの陽気が続き、例年GWまで営業しているスキー場も、4月中旬までもつか怪しい状況になってきた。「連日の融雪に力及ばず……」を決まり文句に、クローズ日を前倒しするスキー場も出てきている。

SNSを開けば、10年前、20年前との同じ景色の比較写真が流れてくる。昔はここまで滑れたのに。この時期に山肌が見えているなんて。長い時間軸で雪のフィールドを見てきているスキーヤー・スノーボーダーほど、その変化を身をもって感じている。

今シーズンが異常なのか。いや、これが普通になってしまうのか。もはや無関心でいられる人のほうが少ない「環境」のトピック。とはいえ、人それぞれ思想やスタンスが違うだけに、発言には慎重になってしまう部分もあるかもしれない。

しかしそうこうして黙っている間にも、みるみる雪は解け、滑れるフィールドは減っていく。今スノーコミュニティ全体でひとつにしておきたい考え方のヒントをここに提言してみたい。
 

「スノーシーズンは2ヶ月になる」かつての予想は現実に

2023年3月中旬の栂池高原スキー場。例年の4〜5月並みの雪解けがみられた – flumen撮影

今シーズンの容赦ない自然の変化を、私個人としては「ついに来たか」という感覚で見ている。

大学で環境社会学やサステナビリティを学び、長野県白馬エリアで冬を過ごした10年ほど前の時点で、雪が減っていく未来は想像できた。地球の平均気温が上がれば、真っ先に変化するのが雪や氷河。その雪を商売道具とするスノービジネスが大ダメージを受けるのは必然だ。

当時からすでに雪不足の気配はあり、12〜4月の約5ヶ月といわれたスノーシーズンも、あと10年もすれば半分ほどになるかもしれない、と直感的に予想した。降り始めは遅くなり、総降雪量も少ないまま、春先には暖かくなって解けてしまう。シーズンの始めと終わりが圧縮され、まともに滑れるのはピークの1〜2月だけというイメージだ。

2023年3月、栂池高原スキー場の山頂から – flumen撮影

バックカントリーなどはまた別だが、ビジネスとして考えるとやはりスキー場が辛い。雪の量がダイレクトに営業期間に反映されるため、5ヶ月から2ヶ月に減ってしまっては、売上半減どころの騒ぎではなくなってくる。

今年の3月も白馬にいたが、ウェアを着ていられないほどの暖かさが続き、日ごとに雪は解け滑走エリアが狭まっていく。初夏さながらの景色に季節観がおかしくなるけれど、今は間違いなく3月である。どう記憶を掘り返しても、かつて4月や5月にした体験に近かった。

スキー場にはこのまま潰れゆくか、四季を通して楽しめるオールシーズンリゾートに方向転換していくかの2択しか残されていない。私たちにできることはないのだろうか。
  

スノーコミュニティと環境問題。抜きにしては語れないPOWの存在

この領域で活動するProtect Our Winters、通称POWという団体がある。

「地球には冬が必要だ」というスローガンを掲げ、スノーコミュニティから気候危機に立ち向かう環境保護団体だ。アメリカのプロスノーボーダーが立ち上げ世界にムーブメントが広がり、日本支部は2019年に設立されている。

冬を前にした2022年10月、POW JAPANが開催したサミットにご縁をいただき参加してきたのだが、ここでの気づきをようやく言語化する時が来た気がするので今更ながらシェアしたい。

POW JAPAN 公式ホームページより

ちなみにPOW JAPANの代表・事務局長とは、発足間もない頃に知り合っている。再生可能エネルギー関連のプロジェクトがきっかけでお会いして以来、個人的にも関心があり活動をチェックさせていただいてきたが、サミットにはいち取材者として、オブザーバー視点を保ちつつ参加させてもらった。

パーソナルな話が続いてしまうのだが、「スノーコミュニティから環境問題を考える」はまさにこのメディアflumenを通して伝えていきたいコンセプトの核にも近く、その領域においてPOWは欠かせない存在だと思っている。ただしこの話をするときにPOWの事例を取り上げることが、必ずしもflumenとしてPOWに全面賛同していることは意味しないとも言っておきたい。

しかし彼らの活動は、本質的に私たちには何ができて何ができないのかを体現している。ある意味、どこまでもリアルなのだ。そこに至るまでの思考の数々が伝わらず、スノー業界においていらない誤解を招いているのも事実で、少し翻訳して伝えさせていただくことでそれを解くこともできるかもしれないと思っている。
  

スキーヤーとスノーボーダーの「滑るフィールド」への想いをひとつに

このサミットは、長野県白馬エリアの青木湖畔にある「ライジングフィールド白馬」を貸し切って、全国にいるPOWアンバサダーやパートナー企業の社員たち数十名ほどを集めて2泊3日の泊まり込みで行われた。

普段は国内外を飛び回るアスリートやライダーたち。それぞれの冬の活動をインスタ越しに見てきた今、あの時あの場所に集まっていたのがいかに錚々たるメンバーだったかがよくわかる。以下がパートナー企業や招待者も含めた参加者の一覧だ。

河野健児さん、小西隆文さん、中山悠也さん、中村陽子さん、橋本道代さん、佐藤亜耶さん、鈴木彩乃さん、小野塚彩那さん、五明淳さん、中島力さん、河野由貴子さん、大池琢磨さん、佐々木大輔さん、山崎恵太さん、星更紗さん、市川貴仁さん、岡本圭司さん、勝野天欄さん、佐々木玄さん、Patagonia、The North Face、Burton Japan、KEEN JAPAN、UPLND、Goldwin

サミットは3日間みっちりとプログラムが組まれ、ワークショップや講義形式で行われた。目的はアンバサダーたちのコミュニケーションとエンパワメント。ここにヒントがあったように思う。

よくデザインされたサミットの構成もさることながら、ひたすらポジティブなエネルギーに満ちた会だった。ワークショップや講義の合間にはSUP、ヨガなどのアクティビティも用意され、食事も地球に配慮したストーリーのあるものが振る舞われた。クローズドなイベントにすることで、本音で話せる場作りが重視されていた。

初日はコミュニティオーガナイジングとストーリーテリングをテーマに、環境問題以前にアンバサダーたちの仲を深めるようなことをやっていった。同じ業界で活動する仲間でありながら、初対面の人同士も少なくなかったこの会では、「仲間づくり」もテーマのひとつ。対話を通してお互いを知っていき、夜には焚き火を囲みBBQパーティーで盛り上がった。

2日目は集中講義の日だった。アラスカの氷河が溶けている話、個人の努力ではなくシステムチェンジが必要という話、スキー場のSDGsへの取り組みの話、そして私たち1人ひとりのパワーに気づかせてくれる市民運動の話。それぞれボリュームたっぷりの講義だが、この順で聞くことで話が繋がり、参加者たちの頭の中に立体的な絵が描かれる構成になっていた。

3日目には、この2日間で学んできたことをどうアクションに繋げていくかを考えた。模造紙と付箋を使ってアクションを洗い出し、ああでもないこうでもないと会話しながら「自分にできること」を見つけていく時間。

スノーコミュニティ内で影響力のある人たちの集まりだけあって、いかにして身近な人やフォロワーを巻き込み、仲間になってもらうかという視点でアイデアが飛び交う。

まずは“知ること”からはじめ、それを自分なりの方法で発信し、人々に伝えて、巻き込んで仲間にする。最終的に行き着くアクションは、みんなそういう、ある種ふわっとした捉えづらい形をしていた。「一緒に滑る!」というシンプルな結論に至る人も。ここで、一体「アクション」とは何なのだろう、と考えさせられる。
  

深刻な雪不足に、私たちが取るべき「アクション」は何か

地球環境のためにマイボトルを持ち歩こうとか、車移動を減らして電車を使おうとか、私たちが取るべき「アクション」とはもう、そういう次元のことでは足りない。なぜなら、一人ひとりの健気な努力ではどうにもならないほど、地球が限界まできているからだ。

「個人の行動レベルではもう間に合わない。システムチェンジを起こさないと」

サミットの講義の中で、参加者全員がハッとさせられた言葉。生活の中の小さな「アクション」が無駄とまでは言わないが、政治や制度などのシステムを変えることをゴールにした「アクション」こそが、今求められている。

POWが日頃行う啓蒙やサミットのような活動を見て「それで結局、気候変動に対してどんなアクションをしているの?」と言う人がいる。口ばかりで具体的な活動が見えない、何をやっているのかわからない、と揶揄するのだ。それ自体がすでにアクションであるということに、環境活動に対して知識がないと気づくことができない。

崩れゆく自然環境を前に、いったい何ができるというのだろう。私は、自分の手では何もできない、と思う。POWとそこに集う人々も、きっとそれに気づいている。

自然の偉大さを知るからこそ、人間が何十年もかけて地球に与えてきたダメージの蓄積を、私たちの行動だけでリカバリーできるとは思えないのだ。だからシステムチェンジの実現に向けた「大きな民意」をつくっていく活動にこそ意味があり、そのために取るべきアクションを考えると、自ずと「伝えること」しか残らなくなってくる。

こんなに地球はボロボロで、残された時間は少なくて、やるべきことは見えているのに。国も政府も大企業も、びっくりするほど動かない。なぜか?自信がないからだ。消費者全員がそちらを求めていることさえ確信できれば、企業は転換してくれる。票が集まるのがそちらなのであれば、政治家も考えを改める。

スキーやスノーボードを楽しむ様子を発信して、こちらの世界へ興味を示してくれる人がひとりでもいれば、そのアクションは大成功といえる。自然との遊び方を知っている人は、誰に強要されるでもなく、地球環境と共生していこうという姿勢やマインドになっていく。そういう人が増えるだけでも「大きな民意」はもうひとまわり大きくなれる。それこそが、POWがやっている「アクション」の正体だった。
  

雪からマスへ。“スノーコミュニティ発”の可能性

「仲間づくり」という初めは陳腐にも思えた言葉が、急に深い重みを持ちはじめる。私がこの“スノーコミュニティ発”の環境啓発ムーブメントを見ていて感じるのは、関わる人全員が「圧倒的な当事者」であり、「強力に結束している」ということだ。

毎日のように山に上がり、ここの地形が変わったとか昨シーズンはここまで滑れたとか、自然の変化にリアルタイムで一喜一憂する人の声は他のどんな声よりもまっすぐ届く。そして何より、雪がなくなったら一番困るのが彼らであり、生活にダイレクトに影響する。

だからこそ、でもあるのだろうが、仲間内でその体験や感じたことを共有し、前を向いて未来を語ろうという結束がかなり強い。根底にハッピーなバイブスが流れている、と言うと少し宗教じみてしまうのだけれど、「この自然でいつまでも遊び続けたい」「大好きなものがなくなってほしくない」「みんなにもこの楽しさを分けてあげたい」と、どこまでも思考がポジティブに突き抜けているのである。

SDGsやサステナビリティの啓発はいよいよ大衆レベルにまで普及したが、何かを我慢して地球のためを優先する自己犠牲的な考え方は、それ自体が“持続的”ではなくいずれ破綻してしまう。そして残念ながら、いわゆる「環境保護団体」は想いが強くなるほどその方向に行きがちだ。

その真逆からアプローチできることこそが、“スノーコミュニティ発”の特殊性である。今日滑って楽しかった体験をシェアしたり、美しい雪景色の写真をポストしたりするのも立派なアクション。友達をひとり、来週のスノーボードに連れていくだけでもいい。そこに少しだけ自然環境への想いを乗せて、「話題にしづらい空気」を変えることから。社会全体で見れば小さなコミュニティなのだから、分断せずに同じ方を向いたほうが絶対にいい。環境の話は政治的で嫌だ、なんてタブーみたいにして触れないのが、実は一番悪質なノンアクションではないかと思っている。

そこに世界観ができていけば、思わぬ角度からマスに届き、大きなムーブメントに発展する可能性すらあるかもしれない。秋のアンバサダーサミットについてはレポート記事や動画も出ている。また次の冬を楽しみに迎えられるように、これからの雪や地球のことも少しだけ考えてみてほしい。
  

» 青木湖畔で行われた2泊3日の「POW JAPANアンバサダーサミット2022」密着レポート


Photo:  @247nikiimages
Movie:  @forestlogd 
Edit & Write:  @ryokown

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