降らないなら運んでこよう。真夏の雪遊びイベント「雪でアソビナ」がつなぐ都市と雪国

by flumen編集部

「なになに」「何かのイベント?」
「え、見て、雪がある!」「涼しそう〜!」

お盆休み初日。連日35℃を超える猛暑日が続く中、ショッピングモールの前で繰り広げられる雪遊びの光景に、道行く大人たちの足も思わず止まった。

季節外れの雪に沸いたのは、子育てタウンとして人気の神奈川県海老名市の、海老名駅前の広場。“真夏の海老名に本物の雪が来る”をコンセプトにしたイベント「ららぽーと海老名 presents 雪でアソビナ(以下、雪でアソビナ)」が4年ぶりに開催された。

もちろん、こんな真夏に雪が降ったわけではない。この雪は人工雪ではなく、新潟県長岡市山古志(旧山古志村)から運ばれてきた天然雪。その裏には、半年の季節と300kmの距離を超えて雪をはるばる運んできた、何人もの大人たちの連携プレーがあった。

2014年の初開催から形を変えながら、コロナによる休止期間を経てパワーアップして帰ってきた「ららぽーと海老名 presents 雪でアソビナ」。その仕掛け人たちに話を聞いた。

真夏の海老名で雪遊び。4年ぶりの「雪でアソビナ」は大盛況

祝日・山の日でもあったこの日、台風の影響で一時は開催が危ぶまれたが、予想より進みが遅かったおかげで晴天に恵まれた。夏休みのど真ん中ということで、ファミリーの多い地域柄ただでさえららぽーと海老名には人が集まる。お昼過ぎに訪れると、すでに広場ではたくさんの子どもたちがはしゃいでいた。

真夏の服装で雪遊び Photo by Rina Ogura

ここで初めて雪に触れる子も多いという。さらにこの数年はコロナ禍の影響があり、家族でスキー・スノーボード旅行に出かけるハードルはこれまで以上に高くなった。数日前に開催を知り、小学生の兄弟を連れて遊びに来ていたお母さんは、「このイベントがあってよかった」と話してくれた。

お母さん「子どもたちも大きくなって、(スキーに連れて行くのも)そろそろかなーとは思っていたんです。でも雪を楽しんでくれるのか、寒かったりして嫌がるんじゃないかって心配で。今日連れて来てみて、まさかこんなに楽しそうに遊ぶとは思わなくて!次の冬はスキーに挑戦してみようかと思います」

ウィンターシーズンインまで約4ヶ月。このイベントが「スキー・スノーボード旅行の予行練習」のような役割を果たしていることが、複数の大人たちの会話から感じられた。

ソリは大人気コンテンツだった Photo by Rina Ogura

雪を敷き詰めたエリアでは、“お砂場遊び”の要領で雪を丸めてみたりする子が多かったが、砂と雪の大きな違いは「滑る」ということ。ソリで滑走体験ができるコーナーは行列が途切れなかった。たった5mほどの雪のスロープでこんなに笑顔になれるなら、スキー場の斜面を滑ったらどんなに新しい体験になるのだろうか。

ステージでは雪を身近に感じられるトークショーが行われた。「雪の博士」が教えてくれる雪のすごさや可能性に、雪に興味津々な子どもたちからの質問が飛び交っていた。
 

電気代は10分の1。雪で冷風をつくるモバイルスノークーラー

広場の奥で目立っていたのが、「クールスポット」と書かれたドームテント。なにこれ?と不思議がる子どもたちの手を引いて、どちらかというと暑さに耐えきれなくなった親御さんたちが吸い込まれるように入っていく。

テント内では「雪の天然エアコン」2台がフル稼働。雪の塊で空気を冷やして送風するから、コンプレッサーが不要で省電力。エアコンの約10分の1の電力消費で済むため、大容量ポータブルバッテリーで1日駆動できてしまうのだとか。電源の取れない屋外でも使え、大袋1つ分・600kgの雪の塊があれば断熱された空間なら丸2日は動いてくれる。

雪の天然エアコン。大きなホースから冷たい空気が出続ける

この画期的なモバイル・スノークーラー「雪風君」は、長岡技術科学大学 雪氷工学研究室と株式会社SnowBizが共同で開発したもの。原型ができたのは20年も前だというが、改良を重ねてこの形が出来上がった。開発した教授自ら、涼しい風を送りながら仕組みを説明してくれていた。

上村教授「雪を使った冷房自体は他にもあるのですが、どこにでも持ち運べるモバイル形式で使い勝手のいいものを作りたくて工夫しました。タイヤを付けて動かせるようになってるんですよ。真夏の運動部の屋外練習や、工事現場で働く人たちなどに使ってほしいですね。熱中症問題が深刻ですから。これを1台置いておけば、いつでも冷風に当たって休めます」

クーラーの横で仕組みを説明する上村教授 Photo by Rina Ogura

豪快に吹き出す冷たい風を、大人も子どもも代わりばんこに浴びにくる。今年初めて設置したというこのスノークーラーは、何度もリピートして涼みに来る人が現れるほど人気スポットになっていた。

テント内では、新潟の天然雪を袋に詰めてプレゼントするサービスも。この暑さではすぐに溶けてしまうだろうと思ったけれど、そんな雪の儚さを感じてもらうのもまた、このイベントが伝えるメッセージなのかもしれない。

自宅前のミニゲレンデから、地域ぐるみのイベントに

企画運営の小山さん(左)と、雪のエンジニアの伊藤さん(右)

4年ぶり・7回目の開催となった「雪でアソビナ」は、株式会社MoVeの小山篤史さん(写真左)による企画運営、“雪のエンジニア”として利雪をライフワークにする伊藤親臣さん(写真右)による雪のプロデュースという、2人のタッグで実現している。そこにスキー場や地元企業・団体が協力者として集い、三井ショッピングパーク ららぽーと海老名が主催という座組だ。

小山さんは18歳からスノーボードで山に篭もり、スノーブランドのプロモーションに携わったり、スノーボードコンテストのSlopeStyle,THE SLOPEを運営するなど前線で活躍してきた業界人だ。結婚を機に海老名に住み、家族ができて仕事への向き合い方にも変化が起きていた2014年、都市機能がパンクするほどの大雪が関東地方を直撃した。

小山さん「僕はずっとウィンター業界にいるのですが、子どもができてからは、コアな人たちだけで盛り上がるんじゃなくて、スキーやスノーボードをする人の分母を増やして業界を活性化しないとと思うようになって。

そう感じていた2014年の2月、このあたりで大雪が降ったの覚えてます?我が家の周りもかなり積もって、雪かきに疲れたので斜面を作って子どもを遊ばせていたんです。そうしたら、近所の子たちがわーって10人くらい集まって来て。家の前が小さなゲレンデみたいになっちゃったんです」

自宅前に即席で作ったミニゲレンデが、こんなに大きなイベントになるなんて。良いご縁はどこに転がっているかわからないもので、このとき集まった子たちの親の中に、海老名市の市議会議員の方がいたという。小山さんが自分の仕事や雪への想いを話すと、夏にある「えびな市民まつり」に雪を入れるのはどうかという話がトントン拍子でまとまった。

問題は雪をどこから調達するか。「真夏の雪遊び」の実現に向け、それまでの仕事のツテを辿りスキー場に聞いて回ったが、なかなかきれいな状態の雪を分けてくれるところが見つからない。何件も当たっていく中で、「雪だるま財団の伊藤先生」と出会った。

伊藤さんは雪の研究をして25年以上になる雪の専門家。新潟を拠点に、雪を使って食料を保存する「雪室」にまつわる活動など、雪を資源として利活用することを生業としている。小山さんから相談を受け、想いに共感しすぐに協力体制に入った。

伊藤さん「雪なんていくらでもあるからどうぞと思って話を聞くと『夏の海老名なんです』って。たしかに都会の夏は暑いだろうし、雪を見たことない子もいますよね。小山さんと話すうちに、夏のお祭りということであれば、熱中症対策としても雪の出番はあるんじゃないかという期待も見えてきました」

小山さん「えびな市民まつりは多くの集客がある海老名で一番大きいイベントなのですが、当時はちょうど夏祭りでの熱中症が騒がれはじめた頃でもあったんです。やっぱり雪があると子どもたちはみんなそこに集まるんですよね。ずっと外で遊んでいても熱中症リスクが少ないということで、夏の風物詩みたいになって、毎年やらせてもらえるようになりました」

300km運べば、雪は“邪魔もの”から“宝もの”になる

2014年から2018年まで、夏の市民まつりに雪を持ってくるプロジェクトは5年間続いた。圏央道が開通したタイミングとも重なったため、海老名からスノーリゾートはこんなに近い!とアピールし、スノーリゾートのプロモーションにも結びつけた。

徐々に規模は拡大したが、2019年は会場の都合で市民まつりが秋に延期に。「やはりキャッチーな夏にやりたい」と会場を探す中、ららぽーと海老名がイベント開催に手を上げてくれ、お祭りのいちコンテンツから独立したイベントになった。コロナにより開催できなかった間も、冬に雪像を作るなど小さな活動を絶やさなかった。

空白の期間にもたくさんの仲間が増えた。またやるんだね!と気持ちよく協力してくれる人たちが集まって、今年はさらにパワーアップして開催に至ったそうだ。

山古志地区で「海老名行き」の雪を詰める様子 Photo by Kentarou Fuchimoto

前日に雪を運び入れ、当日の早朝5時から会場設営

設営には重機が何台も入り、人の手も使って遊びやすいフィールドを作っていく Photo by Rina Ogura

新潟県長岡市山古志から、神奈川県海老名市へ。遠路はるばる300km、50トンもの雪をトラックで運んで来る。「向こうでは邪魔だ邪魔だと言われる雪に、こっちではみんなが感動してくれる」と伊藤さんは喜びを語ってくれた。

伊藤さん「初めて雪に触りましたなんて言われると、やっぱり嬉しいですよ。雪国出身の方がお子さん連れで来てくれたりもして。コロナでなかなか帰省もできなかった中、『お母さんの故郷の雪を、子どもが初めてここで触れました。ありがとう』といった声を聞くと、あー持って来てよかったなって、本当に思いますね」

子どもをスキーに「連れて行っていいんだ」と思ってほしい

Photo by Rina Ogura

時代は変わり、ファミリースキーに「行かない理由」ばかりが増えていく昨今だが、それでも「雪でアソビナ」の運営チームは、今日の体験をきっかけに雪国に遊びに行ってもらいたいと話す。

雪を身近に感じてもらい、雪国に足を運ぶ「理由」をつくることが、このイベントを開催し続ける一番の目的だ。

小山さん「今小さい子を持つ親御さんたちはスキー・スノーボードをしてきた世代なので、また行きたいという気持ちは少なからず持っているんです。でも家族のレジャーとして同じお金を出せば海外旅行に行けてしまうかもしれない中で、雪山に行って猛吹雪だったら……子どもが雪を好きになれなかったら……となかなかウィンタースポーツに踏み切れず、安牌な行き先を選んでしまうんです。

だけど今も見ていただければわかるように、子どもたちは1時間や2時間、平気で雪遊びしてるんですよ。しっかり楽しめている姿を見て『連れて行っていいんだ』と安心し、次の冬にスノーリゾートへの旅行を計画できる。冬前にワンステップ挟むことで、行くきっかけになれているんです」

雪国行きが少しリアルに見えてきたところで、会場ではスキー場のブースがプロモーションを展開している。くじ引きにチャレンジした子どもが来シーズンのリフト券を引き当てる傍ら、親御さんとの会話の中で、スキー場側も首都圏ファミリーのニーズが発見できる。出展していたスキー場の担当者は「秋冬にもスノー関係の展示会などはあるけれど、そこには来ないようなライトな層と触れ合える」とこのイベントの魅力を話してくれた。

小山さん「このあたりは車社会で子育て世代が多いので、都心よりもスノーレジャーとの相性がいいんです。僕らが子どもの頃は、年に何回か積もる雪に対する憧れのようなものがあったと思うのですが、今の子たちにとって雪は未知のもの。降ってもすぐに消えてなくなってしまう存在なんです。待っていても雪は降らないので、運んで来る価値はあると思っています」

伊藤さん「僕がサポートさせてもらっている理由も、雪を身近に感じてもらい、雪国に行きたいと思う人を増やしたいからです。ここで新潟から来た雪に触れれば、冬に新潟に雪が降っているニュースを見たとき、ああ降ってるんだな、と少し身近に感じますよね。そこで『行ってみたいな』という気持ちになってくれたら、大成功なんじゃないですかね。

山古志のほうでも『これは海老名行きですね』と雪を取っておくことがすっかり定着してきています。この日のために半年間保管して、渋滞に巻き込まれながら運搬して、早朝から設営するのは大変なことですけど、これからも続けていきたいイベントです」

役目を終えた雪は重機でほぐされ、照りつける西日でみるみるうちに溶けてしまった。「また来年」ではなく、「またすぐ冬に」が叶うように。国土の50%が豪雪地帯に指定されている国の住民として、雪の恵みをすべての人が感じられる国であってほしいと、改めて感じさせてくれるイベントだった。

▼2019年のイベントの様子


Photo: Rina Ogura @__gurari__ / Kentarou Fuchimoto @kentarosnow / 雪でアソビナ @yukideasobina , flumen @flumen_official

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