前代未聞のスキー場内フリーライド大会となったFWQ HAKUBA 2022を運営目線でレポート

by flumen編集部
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2022年3月、春めきつつある長野県白馬村で、世界最高峰のフリーライドの国際大会Freeride World Tour(以下FWT)の日本国内予選である「TOYO TIRES FREERIDE HAKUBA 2022」が開催されました。

FWTとは、整備されていない自然のままの雪山=バックカントリーエリアを滑走してそのラインの美しさや技の難易度を競う、スキー・スノーボードのフリーライド競技の大会。ゲレンデ内が会場となるコンペティションと違って、天候や積雪に大きく左右されるため、運営にとっても選手にとっても非常に難易度の高い大会です。

スイスに本部があるFWTが日本に上陸して6年目。私は2019年からこの大会の運営チームに関わらせてもらっているのですが、2年ぶりに現地で一緒に動いた今シーズンは、あらゆる面で激動が続くハイパーエキストリームな大会になりました。

記録として大会前後の様子をレポートします。大会やウィンタースポーツのことを知らなくても理解できるようできるだけ専門用語などを使わずに書くので、ぜひ知られざるフリーライドの世界に触れていってください。

1月の大会がコロナで延期。初めての“3月開催”に

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2020年までは本国チームと外国人選手がたくさん来日し、FWT(世界ツアー)の第一戦目として毎年1月に行われていました。しかし渡航制限で海外から来られなくなったため、2021年からはひとつランクを下げ、FWQ(予選)として国内大会に切り替えて開催しています。今年も1月の開催日程が決まり、秋頃からチームミーティングが始まっていきました。

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JAPAN SERIESとして国内4箇所で予選を開催

ちなみに日本の運営をしているFWTジャパンチームは、ほとんどが副業・フリーランス・プロボノ・ボランティアで構成され、所属やメイン活動は人それぞれ。コロナ以前から全国各地・海外からリモートワークで、冬は雪のある地域を転々としている人も多いため、各々いろんなところからミーティングに参加してきます。

シーズンが近づくにつれて徐々にメンバーが増えながらも、自己紹介もそこそこにやるべきことを進め、雪玉がコロコロ転がるかのように膨れ上がって最大直径で本番にぶつけるような運営スタイルが恒例となっています。https://www.youtube.com/embed/-9gdS2ignxY?rel=0

かっこいいティーザー映像も公開し大会本番が近づいた1月初旬、白馬のALLスタッフミーティングでPCR検査や感染対策の議論をしていると、「ところで白馬村で感染者が増えているみたいだけど、イベントの開催自体、本当に大丈夫?」という話に。確認するとちょうど白馬村の警戒レベルを5に引き上げるという発表がされたところでした。

そこからは早く、白馬村観光局、ジャッジ、ガイド、スポンサー、各所と話をして延期発表を出す運びに。延期後の日程は、さまざまなスケジュール調整の結果、3月中旬になりました。雪解けが始まる頃なので、山のコンディションがどうなるか心配ですね。この心配が、とんでもない形で本番に襲ってくることに……。

いざ大会という日の朝、大きな雪崩が発生

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1〜3月に舞子・ロッテアライ・安比高原などで大会を開催するのと並行して、関係者全員が「なんとしても3月には」という強い気持ちで白馬大会の準備を進め、大会当日の朝を迎えました。滑走する斜面はこんな感じのはずでした、予定では。

しかし受付を済ませた選手たちが山を上っていき、山頂に集まり始めた8:30頃、先に山に上がってフェイス(斜面)を確認していたスタッフから衝撃のメッセージが。

「フェイスが雪崩れました」

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おそろしい春の雪崩……

先に言っておくのですが、この大会、雪山を知り尽くした現地のガイドやレスキューたちが、念には念を入れてこれ以上ないくらい安全管理を徹底したうえで実施されています。大会前から毎日毎日ガイドが山を登り、雪の断面を見て層をチェックしたり滑って雪質を確認したりしながら、選手が安全に滑れるように力を尽くしているのです。今回も3箇所ほどの候補斜面の中から、ギリギリまでどこで行うか吟味されておりました。

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「バックカントリー」と聞くと反射的に「危険」と思ってしまう人もまだまだ日本では多いかもしれませんが、国際大会は1996年に始まっていて、爆薬による雪崩管理などの技術も世界ではかなり進んでいます。

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日本でも選手に向けてビーコンなどアバランチギアの使い方を学ぶセーフティーワークショップを開催したりと、むしろ大会自体以上に安全啓発のほうが意義深い活動をしているのでは?と思えるほど、FWTの理念“セーフティーファースト”は全世界のすべての予選大会にまで浸透しているのです。

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春の訪れは唐突に。

それでも予測不能な変化をしてくるのが自然です。実際、気温が急上昇してしまったのはこの2日間のことだったそう。自然に翻弄されることには慣れた人たちの集まりだから混乱こそ起きなかったものの、その日の中止の判断が下ったときは全員で落胆し、自然を相手にすることの恐さを痛感しました。

あらゆるオプションを検討し尽くした結果、前代未聞の大会が爆誕

そこからはディスカッションの連続でした。雪崩の直後、山頂に上がったガイドやジャッジたちで山小屋にて議論。近くの白馬五竜スキー場でも全層雪崩があったという知らせがあり、この状況でバックカントリーエリアでの大会は危険すぎるため、まずはスキー場外の斜面を使うという選択肢が消えていきました。

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しかしそもそもFWT/FWQは「バックカントリーの大会」です。バックカントリーエリアでできない以上、中止しかないのではという意見も出てきます。一方で、北海道など遠方から集まっている選手や多大な支援をしてくれているスポンサーの気持ちを思うと、形を変えてでもなんとか実施すべきだという意見も。

とりあえず天候的に翌日の開催は難しいという判断になり、翌々日にずらした上で検討することに。1.5日という時間の中で、決めなければいけないことが山積み。山頂では結論が出ず、一旦持ち帰り下山することになりました。

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選手にも意見をもらおうと、山を降りてから選手代表何名かを交えてミーティングを再開。運営事務局が選手にヘルプを求めるのは異例のことですが、本気で世界を目指して来ている人もいる中、選手ファーストの運営判断をするためには必要な時間でした。

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選手たちから出た意見は「FWTのセーフティーファーストを大切にしてほしい」「できないものは仕方ないからどんな形になっても文句はない」「自然の変化による変更に対して何か言うような人はそもそもこの大会に出場していない」など。運営チーム一同、涙。。

「どんな形でもいいから実施はしてほしい」という意見が多く、白馬八方尾根スキー場内に会場を移してフリーライディングエリアで行う案が第一候補となりました。その上で、難易度をできるだけFWQ4*(予選最高ランク)に近づけるために、自然地形のまま滑るかアイテムを置くかだったり、どういうコース編成にしたらいいかという議論がされました。いろんな案が出た中で決定したのがこちら。

【白馬八方尾根スキー場内のフリーライディングエリアを「第1セクション:ウラクロ」「第2セクション:おむすび」「第3セクション:国際ゲレンデ」と3つのセクションに分け、各セクションの平均点で採点。スキー場の一番上から一番下まで、標高差800mの非圧雪斜面を駆け抜ける】

これは……キツそう。競技などはやったことがない私でも、とんでもない大会が生まれてしまいそうなことだけはわかりました。重くて足が取られる春の雪を上から下まで。これはほぼ全力疾走するマラソンなのでは……?給水所とか設けなくて大丈夫なのかな(心配)。

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赤丸の3セクションを順番に滑る

標高差があることで雪質にバリエーションがもたせられ、長距離であることによりさまざまな技量や対応力が試されます。「スキー・スノーボードの総合格闘技」という表現をした人がいましたが、まさにゲレンデ内で考えうる最高難度のコンペティションという感じです。

ただ、スキー場内でやるということは、当然スキー場の許可が必要です。「スキー場の非圧雪エリアを上から下まで57名の選手が滑り降りる大会を明後日やらせてください」って、聞いたことない。そんなお願いを即日で許可してくれたっていうんだから、もう感謝しかないですね。

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スキー場内でならできる……!ということで、夕方から白馬村観光局に再集合。日本チームだけで決定できないこともあり、本国のヘッドジャッジに緊急コール。向こうは午前でオーストリアでの大会の真っ最中でしたが、濃霧によるウェイティング中のわずかな時間に会議に参加してくれました。FWQはこうして世界に繋がっているのです。

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スタッフ宿ではその夜も、翌朝も、ずっと打合せが続いていました。ちなみにスタッフ宿「ホテルそよ風」の居心地が最強によいことが救いだった。白馬にお越しの際はぜひ。

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いつにもまして波乱万丈な展開に開き直って一部で盛り上がる中、淡々といろんなところに連絡を取り続けるリーダー。

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その頃PRチームはというと、とりあえずリアルな現場を記録しておくことに一生懸命。

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大会前日の夕方となり、再び全員が集まってミーティング。コースが長いということは、ジャッジの人数もたくさん必要。配置もよく考えなければならない。1人のジャッジが全滑走を見られないから採点方法も前例がない。スタートやゴールエリアの設営も変わる。無線機もいっぱい必要。さらに映像・写真撮影のチームはカメラの配置やドローンの動きを白紙に戻して考え直し。

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人の配置図。タイムマネジメントが鍵になる模様。

こんな感じです。すべての規模がなんだか異次元すぎている。ちなみに運営チームには英語話者もいるので、複雑な事柄も通訳を交えながらになります。本当にお疲れさまです。

何より、このディスカッション中の時間、どんな大会になるかもわからないまま待機してくれた選手の皆さん、本当にありがとうございます。私の立場からはお礼を言うのも憚られるくらい、リスペクトです。

迎えた大会当日。約4時間に及ぶコンペティションに

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大会当日の3月16日(水)は晴れて天候に恵まれました。朝8時からリフトで続々と選手・スタッフたちが山頂へ。頂上のスタートエリアと中間地点のゲート、3つのジャッジエリアなどに散らばり、競技スタート。

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自分の出番以外の待機時間が長いので、滑って待つ選手や応援に徹する選手などさまざまでした。何よりも大会を楽しんでくれていること、選手同士がリスペクトしあっている感じ、とてもよい。

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スタートゲートも盛り上がり。私は、撮影ボランティアが足りないということでおむすび上のゲートでひたすらゴープロを振り回していたので、実は滑りがほとんど見れていません。(気軽に引き受けてしまったけど、迷子になって遅刻したうえ爆風の中で4時間定位置がハードすぎて、適材適所の大切さを痛感しました笑)。

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ここは選手がトップから降りてきて最初に一旦止まる場所。みんなかなり息切れしていて、キツイ〜〜〜!コブだらけ〜〜〜!としんどそうでした。ゼエゼエしながら「水飲む時間ありますか!?」と尋ねる選手も。しかし容赦なくはじまるカウントダウン。

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途中からこの場所は立っているのがやっとなくらいの爆風で、フラッグがすべて飛ばされてしまいました。私は役に立たないので、懸命に直してくれている姿を記録。

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ちなみにこのゲート付近、一般のお客さんがコースをかすめる地形になっていて、選手のスタートタイムに合わせて誘導が必要に。ふつうにスキー場に遊びに来ただけなのに謎の大会が行われていて、初心者でもお構いなく遠くから「早く行け!」とジェスチャーで急かされることになり、ごめんなさいすぎる。スノーボードを嫌いにならないでください。

おかげさまで中断することなく57名の選手が滑り切り、怪我やトラブルもなく大会を終えることができました。感謝。

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シビアにタイムを切って進めていたものの4時間近くなったので、選手もスタッフもへとへとでしたね。本当にお疲れさまです。

運営チームの仕事はもちろんここでは終わらず、下山後すぐにジャッジを中心に採点作業に入ります。私は同席できなかったのですが、ここでの議論はFWTジャパン史上最大ともいえるほどのヒートアップを見せたとか。歴史の1ページに立ち会えなくて残念でしたが、みんながそれぞれの立場から真剣にこの大会に向き合っている証拠ですね。

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入賞者のみなさん。かっこいい!

西日が差し込む中、入賞者フォトセッションが行われました(感染対策のため少人数で)。かなりハードな大会だったはずなのに、選手たちは口を揃えて「開催してくれてありがとう」と言ってくれるのです。なんということでしょう。自然の雪山と向き合っている人たちの寛容さと広い心、感謝とリスペクトを忘れずにお互いを想い合えるところが私は大好きです。

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スタバのテラスにて。どこでもゲリラ的にはじまるミーティング

フォトセッション後も、暗くなるまで反省会が続いていました。大会後が本番のPRチームは、プレスリリース配信やSNS投稿、写真・動画素材も含めたメディアへの送付などをやり、これにて大会終了。観光局・プロダクションチーム・PRチームの連携により県内のテレビでも放送してもらえたので、ぜひ見てね。

スキー・スノボの攻撃的な滑り競う 白馬でフリーライド大会【長野】

今年もなんとか開催できて、本当によかった。

人生を豊かにしてくれるフリーライドをまた来年👋

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いい写真。
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最高。

こんな感じで、フリーライドの大会は、誰も何も予測できないほど運営もフリーライディング。毎年すごい展開になるので「ドキュメンタリー番組に取材してほしいね〜」なんて話すのですが、何しろ予定したスケジュールがひとつもそのとおりにいかないので、取材に来てもらうことも難しい笑

スポーツの大会は数あれど、FWT/FWQは選手と運営がワンチームになって開催している感がすごくあって、立場問わずみんながフリーライドに魅了されているのが素晴らしい。それもこういう特殊な環境下で行う競技だからこそだろうし、この大会の根底にある思想やマインドが伝わると、人々のメンタルや意識にもポジティブな影響を与えられそうだなって壮大に考えました。

ここに書ききれていない動きもたくさんあり、数え切れないほどのストーリーが生まれた大会でした。ほんの一部ですが、このレポートが何かの刺激になれば🔥

最後に、当日夜の集まりの場で運営チームに向けて伝えられた、白馬村観光局事務局長の言葉をお借りします。

「日本で初めてのバックカントリー大会を白馬でやるって言ったときは総スカンされたけど、その時から支えてくれた人たちの力は本当に大きい。今回いろんなオプションがなくなって、もう開催できないんじゃないかと誰もが思った中で、八方尾根スキー場はたった15分程度の会話で“やりましょう”と言ってくれた。これまで5年間の皆さんの協力が、スキー場の信頼を得るパワーになっていたと、あの瞬間に証明できたと思う。ここにいないライダーも含め、今回も関わってくれたすべての人がベストを尽くしてくれたことが嬉しい。

来年はもっと高みを期待されている中で、スキーやスノーボードが人生をこんなに豊かにしてくれるということを見せていく努力をしたい。その喜びを知っているプロフェッショナルが集まったこのチームなら、この力をもっと大きくしてうねりを作っていく動きができると思うから、また来年も、という気持ちです。ありがとうございました」

この大会の様子はFWTジャパンのSNSアカウントで配信しています。Instagram @freerideworldtour_jp をフォローしてぜひ追ってみてください!(私のアカウントは @ryokown こちら)

また、3月末〜4月初旬頃を目安に、大会の様子をまとめたハイライト映像を配信します。そちらもお楽しみに!(現場にいたのに全然見れなかった私も楽しみに待っています)

それではまた来シーズン雪山でお会いしましょう👋

Photo by @yumahamayoshi / FWT JAPAN ©

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