Archive: コロナ禍のスキー場運営はどうなる?冬を迎える南半球よりレポートと考察

by flumen編集部
Archive: コロナ禍のスキー場運営はどうなる?冬を迎える南半球よりレポートと考察

※本記事は2020年6月21日にnoteで公開された コロナ禍のスキー場運営はどうなる?冬を迎える南半球よりレポートと考察 を再編集し、アーカイブとして掲載しています

世界的にも新型コロナウイルスの一番ひどい期間は乗り越えたように思えますが、まだまだ感染に気をつけながらの新しい生活様式は続きそうです。

そんななか、私の住むオーストラリアでは、来週からスキー場がオープンし本格的にウィンターシーズンが始まります。

Covid-19の影響で、例年とは異なるオペレーションとなる今季。各スキー場の対応を見ていると、日本の来シーズンを考えるにあたって参考になりそうな点が多々あるので、シェアしたいと思います。

これを書いている現在は2020年6月20日。日本では緊急事態制限が解除されたばかりで、冬まで半年もあればさすがにコロナも消え失せて通常営業だと信じたいところですが、南半球を参考に少し考えはじめてみてもよさそうです。

第二波や別のウイルス流行の可能性は十分にあるため、感染状況や政府の規制レベルに応じて柔軟に対応できるよう、段階的なプランを用意してリスクヘッジしておいたほうがよいと思われます。

※なお、本記事の情報は現地のニュースサイトやSNSなどを参考にしていますが(最後に貼っておきます)、個人リサーチレベルなのでご了承ください

オーストラリアの現状とスキー産業

現在のオーストラリアは、感染者数も減り規制が緩和されつつあります。まだ大人数のパーティーなどは許可されておらず、ソーシャルディスタンシングも健在ですが、日常生活は極めて通常どおりになりつつあります。

画像1

先週ビーチに行ったところ、近隣地域からの観光客で大混雑していました。6月から国内旅行が解禁になったため、ドライブ圏内への小旅行が爆発的ブームとなっています。

というのも、オーストラリアの特にNSW州では、長いことタフな期間を経験してきたからです。昨年9月から約半年にわたり続いた森林火災、今年に入りそれがすべて消火されてしまうほどの大雨・大洪水、やっと落ち着いたところへCovid-19の流行です。抑圧が溜まりに溜まり、人々の「もう耐えられない」という感じが一気に吹き出している状態に思えます。

画像2

そういうわけで、「スキー場が開く」だけで大歓喜です。オーストラリアは南国大陸のイメージがあるかもしれませんが、このあたりの南のほうでは雪が降ります(雑)。スノーリゾートがある地域は、New South Wales州とVictoria州にまたがります。スキー場は全部で10箇所ほど。数は多くありませんが、ひとつひとつの規模が大きいです。

メジャーなところだと、ThredboとMount Bullerが22日から、Perisher、Falls Creek、Mount Hothamが24日から、続いてCharlotte Passが26日から営業開始となります。

大陸全体の割合としては狭く、スキー産業自体も大きいとはいえませんが、オーストラリアにも熱狂的なスキー・スノーボードファンがいます。それこそ今冬(こっちの夏)に「日本に滑りに行く予定だったけれど行けなかった」という人も多いため、待ちに待った雪という雰囲気があります。

Covid-19対策に万全を尽くしたスキー場運営

画像3

どのスキー場もほぼ共通したルールは下記のようになっています。

・政府が定めたガイドラインに沿った運営
・警察がパトロール、周辺地域やハイウェイにも監視が入る
・スキー場エリア全体でソーシャルディスタンス必須
・Covid Safeという追跡アプリのインストールが必須
・各所にサニタイザーステーションの設置
・ソリやスノーチューブなどは衛生面から禁止
・4人乗りのクワッドリフトは両サイドに座って2人乗りに
・ゴンドラは1台あたりの人数制限をして運行
・リフトの列は1.5〜2メートルの間隔を空けて並ぶ
・リフト券は前売り制のみで当日券はなし

映像を見るのがわかりやすいので、ニュースのYouTubeを貼っておきます。

全体において、ソーシャルディスタンスを保ち衛生面に最大限配慮するためのルールとなっています。

スキー場によって多少の違いもありますが、たとえばThredboでは例年の50%のキャパシティで運営すると発表しています。リフトの乗車にも制限があり、Mt Hothamでは「一緒にリフトに乗れるのは同じ部屋に泊まっている人のみ」と決められています。知らない人と乗り合わせることはないということですね。

なお、きちんと隔離された(self-contained)宿泊施設は例年どおり営業しますが、ロッジなど他人とシェアするスペースがある施設は規制が入るようです。

レンタルにも影響がでています。板やブーツなどのギアは貸し出せますが、ウェアや小物など直接肌に身につけるものは禁止となります。

グループレッスンは避ける傾向にあり、少なくともThredboとMount Bullerでは「プライベートレッスンのみ」とはっきり発表されています。

周辺やゲレンデ内のカフェやレストランは、州ごとの規制(入店人数制限など)が同じように適用されます。いくつかのリゾートでは、自分で軽食やランチなどを持参して山に登るようにとアナウンスしているところもありました。

こうした状況から、かなり制約のある施設運営・サービス・アクセスであるにもかかわらず、ドミトリー型滞在やレンタルが例年通り使えないことから、滞在費は割高になるだろうと予測されています。

リフト券販売に28,000人が殺到、サイトがダウン

画像4

こうした特殊な状況でも、長かった停滞期間から抜け出したい一心で、オープン前から凄まじいリフト券争奪戦が起きています。

上述したように、今季のスキー場は例年の50%程度に抑えた運営で、混雑を抑えるためリフト券は前売り制です。各リゾート、直前まで情報が出てこなかったのですが、先週からようやくWebサイトでのリフト券販売が始まりました。

Thredboではアクセスが集中してWebサイトがダウン。誰も買うことができずカスタマーセンターまでパンクし、Facebookページのコメントが問合せで溢れかえる事態となりました。

気を取り直して販売日時を複数設けアナウンスしたところ、それぞれ一瞬で完売してしまったようでした。1日で28,000人がアクセスし、これは同Webサイトへの過去最高アクセスを記録したとのこと。8月末までのリフト券が完売しています。

既にシーズンパスを購入していて行けない人に関しては、Perisher/Falls Creek/Mount Hothamで使える「2020 Epic Australia Pass」 、Thredbo/Mt Bullerで使える「The Ikon Pass」ともにリファンド可となっています。

日本のオペレーションにどう応用できるか

このようにオーストラリアのスキー場は、制約が多く日々状況が変わるなかでもスピーディーにオペレーションを組み、またとない大盛況となりそうな予感です。日本も今冬、同じようにうまくいくのでしょうか。日本との明確な違いもあり、オーストラリアは以下のような特徴があります。

①自家用車でのセルフ移動が一般的
②スキー場の総数(選択肢)が多くはない
③エリアが広大で密閉空間が少ない

まずはスキー場までの移動手段の問題です。土地が広大なオーストラリアではそもそも自家用車での移動がほとんどで、100%国内客の今シーズンにおいては、公共交通機関での来客はかなり少ないと見込まれます。対して日本はバスツアー頼みのスキー場が多く、根本的に来客ルートが違いそうです。バス会社やツアー会社の状況によっても売上が左右されるかもしれません。

そして、オーストラリアではスキー場の総数が少なく、現在地から行こうと考えたときに候補となるスキー場は2〜3箇所しかありません。しかも政府がガイドラインを敷き、ほぼすべてのスキー場で同じ対応が取られています。大から小まで無数にスキー場がある日本では、各スキー場ごとに対応が異なると、客側もどう選べばいいのかわかりません。「あそこのスキー場は規制がゆるいけどあっちは厳しいらしい」などと噂が流れ客足に響くようなことになりかねないため、ぜひ統一したオペレーションをどこかが敷いてほしいと思います。

さらに、そもそもスキー場エリアが広大なオーストラリアは、いわゆる「三密」になるような空間が日本よりも少ないことも大きな違いです。日本のスキー場のレストハウスなど、密閉されてストーブが焚かれているような空間は、それこそウイルスの温床です。古い建物も多いので、換気が十分でないところもありそうです。

上記のような点も鑑み、真似するところは真似しつつ、日本は日本の環境にあわせたオペレーションを組むことになるのかなと予想できます。

アウトドアアクティビティの需要は高まる。段階的なオペレーションプランを

2021年になるころにはどんな状況かまったくわかりませんが、個人的には2つ間違いないと思っていることがあります。アウトドアアクティビティの需要が高まること、そして、どんな状況も考えられるため安心しないほうがいいということです。

人間は自然を欲する生き物なので、こうも外出がしづらい期間が続くと、本能レベルで自然に向かうようにできています。実際に私の住む自然たっぷりのビーチリゾートにも、規制緩和された瞬間に国内観光客が押し寄せてすごい賑わいになっています。

実利的な意味でも、オープンな屋外で行われるアウトドアアクティビティは感染リスクが少なく、身体を動かすことで免疫力が高まるなどのメリットも期待できます。

画像5

自粛期間中、キャンプ人気が密かに高まったという話もありました。作業服販売大手のワークマンは、三密を避けるアウトドア需要が高まることを見込んで、子供服と子供靴事業に参入することを発表しました。日経XTRENDの「アフターコロナに注目のアウトドア市場が分かるまとめ記事」も参考になります。

しかし、第二波や次のウイルスの話もささやかれているため油断はできません。既に中国では4月にまた新しいウイルス(ハンタウイルス)が発見されているし、ミネアポリス連銀総裁が「コロナ第二波が秋に到来、失業率押し上げる」と明言しています。日本国内でも、第二波を乗り越えた北海道の知事が「第三波は必ず来る」と言っています。

未来の話は何を信じればいいかわかりませんが、第二波が来るといわれる理由や科学的根拠を解説した記事などを読み漁ると、個人的には「たしかに来るな」と思えます。

今回のコロナウイルスも急でした。12月まで一生懸命準備して、さあシーズンインというときに、また新ウイルスが流行るかもしれません。しかし、今年負ったダメージが大きすぎるため、来年はウイルスが流行ったとしても条件をつけて営業しないともう持続していけないと思います。

来シーズンのスキー場運営や大会開催などの話を考えるときは、感染状況に合わせて柔軟に対応できるような段階性プランを3パターンくらい用意して、あらゆる観点ででリスクヘッジして進めたほうがいいのではないでしょうか。

参照記事
A ‘different’ snow season to launch in NSW
Planning a snow holiday? How to reduce your coronavirus risk at Thredbo, Perisher or Mount Buller
Thredbo’s website crashes as people scramble to get passes for shortened ski season
Ski season is back on, as regional NSW prepares to put out the welcome for visitors
Different slopes for skiers
Thredbo resort’s online ski pass shop clogged by 28,000 customers in first sale
Thredbo website crashes after opening-day sales rush
Planning a snow holiday? How to reduce your coronavirus risk at Thredbo, Perisher or Mount Buller

You may also like

Leave a Comment