スノーボードメディア界に「横乗りライフスタイルマガジン」として突如現れた241MAGAZINE。個人で運営するメディアながら、飾らない文体の大会出場レポートやライダーインタビューがじわじわと支持を集め、ファンを増やしている。
241MAGAZINEを運営する @241_takahiro と私 @ryokown は、今から4年ほど前にノルウェー在住の共通の知人が繋いでくれた友人同士で、その縁から同じスタートアップ企業で働いていたこともある元同僚。スノーボードへの情熱を独自のスタイルで表現している同世代ということで、さっそく話を聞かせてもらった。
インタビューは4月上旬の白馬にて。241MAGAZINEを立ち上げたきっかけから、話は昨今のスノーボードメディア全体のことへ──。前編ではいつものキャッチアップの流れで、運営の背景にある想いやメディア観を中心にトークした。
「スノーボードを辞めないでほしい」 等身大で伝える、横乗りライフスタイルマガジン
RYOKO(以下RY):白馬で会えるなんて嬉しいね。ところで腰、大丈夫?(数日前に骨折したらしい)
241MAGAZINE(以下241):痛すぎて動けなかったけど今はなんとか。怪我で強制的にシーズンアウトすることになったから、話聞いてもらうにはいいタイミングだったかも。
RY:前から怪我多いよね、ほんと気をつけて……。さっそくだけど、241MAGAZINE、すごい勢いあるね。立ち上げたのはいつだっけ?
241:2021年の6月やね。もうすぐ1年くらいになる。
RY:100記事更新おめでとう。個人のブログにしてはかなり力の入ったインタビュー記事も上げてるけど、どういう考えがあって始めたの?
241:一番大きい目的は、すでにスノーボードをやってる人たちのモチベーションを上げたいとか、スノーボードを辞めないでほしいっていうところかな。自分が18歳くらいからノンストップでスノーボードしてきて今30歳になったんやけど、周りの仲間はずっと減り続けてて。子供ができたりライフステージの変化で山から遠ざかったり、理由はいろいろだけど、そういう人らにもう1回スノーボードしてもらいたいって気持ちが強い。年齢が上がってくると、“滑り続ける理由”みたいのがだんだんなくなってくるんよね。
RY:子育て世代になるとね……。スノーボードってお金もかかるし丸1日潰れるから、趣味としては特に続けづらい。聞いた話だけど、スノーボードを始めても、2年以内に辞めちゃう人が8割なんだって。そこからさらに3年、5年と続けられる人なんて本当にひと握りになってくる。
241:そうなんよね。続けるのに理由が必要というか。託児所のあるスキー場がマジでないから続けたくても現実的に無理とか、リアルな話も同世代から聞くようになってきたし。
RY:ああ、それは新しい視点。共働き世代に合わせたスキー場のインフラ整備とかも課題になってくるね。
241:そういうすぐに解決できない問題もあるんやけど、それでも俺の周りには子供できたり引っ越したりしても自分なりのスタイルで続けてる人っていうのも一定数いて。そういう人って大会で勝つわけでもすごい映像を発信してるわけでもないから、日の目を浴びひんねんけど、会社員だったり自分のライフワークだったり別の活動もしながら独自のかっこいい形でスノーボードを続けてる。大手メディアはそういう人を取り上げないから、自分がインタビューして「こんなスタイルもあるよ」っていうのを伝えていきたいと思ってる。
RY:なるほど。じゃあインタビューは自分の身の回りの人が多いんだ?
241:そうやね。“再現性”みたいのは大事にしてるから、身近なところでいいなと思った人に直接お願いしに行ってる感じかな。知り合いづてでちょっと思い切って声かけてみたライダーもいるけど、ありがたいことに快くOKしてくれてる。モチベーション高く続けてる人の話を知れば、辞めてしまいそうな人が“続ける理由”ができるかもしれないし、影響されてスノーボードを始める人もいるかもしれない。
RY :241MAGAZINEはいろんな人のエピソードを選択肢として提示しているんだね。
241:あーそうそうそう。いろんな形を見せて、「久しぶりに滑りたいな」「来週またボード行ってみようかな」とか、そういうきっかけが与えられるメディアでありたいな。
昨今のスノーボードメディア、どう見てる?
RY:さっき「大手メディアが取り上げない」って話があったけど、スノーボード業界に詳しい241MAGAZINEは、最近のスノー系メディア全体をどう見てるの?
241:そうやなあ、今あるメディアは、題材にする内容がかなり限られてるなって印象はある。スノーボード雑誌が見せてくれるようなヨーロッパのやばいアルプスを滑り降りる様子とかって、俺みたいな層からしたらすごい読み応えあるんやけど、それを自分に置き換えてイメージできるかって言われたら難しいなと思ってて。
RY:次元が違いすぎて、自分が滑ってる想像はできないよね。
241:かっこいいなとは思うけど、それを見て「よし、明日からスノーボード頑張ろう!」とはなりにくい気がしてて。メディアもそれぞれスタイルが確立してるから、そのカラーや体裁を崩すような記事は出しづらくて、それはそれでニーズはあるけど昔と比べて「一部なコアな人のための読み物」になってるとは思う。
RY:長年やってるとプライドもあるだろうし、崩しづらい業界ではあるよね。スポンサーの関係で、取材できる人や紹介できるブランドが限られちゃったりもするのかな。
241:それもあるけど、なんやろな、漠然とした「ダサいことはしたくない」みたいなのが業界全体としてある気はするんよね。
RY:わかる。スノーボーダーにとって「ダサい」は致命傷だもんね。
241:そうそう、いや、ほんまにそれでしかないんかなと思ってて。そこを追求してきた結果、スノーボードメディアがかっこいいと思う魅せたい世界観のレベルが、一般人には価値がわかりづらいところまで上がりきっちゃってる。
たとえば、このまえFREERUNていうメディアで「フォトグラファー集団と招待されたライダーで、暗闇に設置した圧雪車を飛び超える」ていう記事があって。俺とかはすげー面白い企画と思ったし出てるライダーもカメラマンも知り合いで間違いなくイケてるから見てみてほしいんやけど、一方でふと冷静になると「これのスゴさとか面白さが伝わる層ってどれくらいいるのかな」みたいな(笑)。マジでスノーボードリテラシーの高い超一部のコアな人たちの世界が出来上がってるというか。
RY:かっこいいとは思うけど、カルチャーとして成熟しきって、普通にスノーボードを楽しんでる人たちはちょっとついていけないかも。
241:それはめっちゃ思う。だからこそじゃないけど、既存のスノーボードメディアができない領域が、メディアの立ち位置としては空いてると思うんよね。
RY:ずっと斜陽産業といわれてるスノー業界をまた盛り上げるには、多少「ダサくなる」ことも必要なのかもしれないね。
雑誌系メディアとYouTubeの間で、繋ぎ役になりたい
RY:私はスノー関連のPRをやったりもしている中で、いつも思っていることなんだけど、そもそもメディアの数が少なくない? 必ずしも“スノーボードメディア”じゃなくてもいいんだけど、レジャー情報誌でもアウトドア系でも、スノー関連の話をもう少しライトに取り上げてくれるメディアって、探しても本当にない。
241:それは俺もいまいち思いつかんくて。雑誌系とその系列のWebメディアはだいたい知ってるけど……。
RY:超コアな世界観じゃなくて、スノーボードを始めて数年みたいな人たちが見てるメディアって紙・Web含めてあるのかな?
241:それがたぶん今はYouTubeなんやろな。
RY:あーそうだね。YouTubeに流れてるんだ。見てる?
241:俺が見てる感じだと、今の雑誌とかいわゆる“メディア”はコアな一部の層だけが見てて、スノーボード始めて楽しくなってきてるくらいの層にはあまり刺さってない気がする。少し上手くなってグラトリできるようになったくらいの人らが調べて辿り着くのが、たぶんYouTube。いぐっちゃん、ラマさん、星野文香、マナトくんとかそのあたりのYouTuberたちが「スノーボード楽しいな」って思わせるようなコンテンツを出してて、登録者数も伸びてるんじゃないかな。YouTubeこそ昔の感性からすると「ダサいこと」に入るのかもしれないけど、それを惜しみなくやってエントリー層の裾野を広げてるのは、純粋にすごいと思うな。
RY:映像だと参考にしやすいし、空気感も伝わるしね。でも私の印象ではYouTubeってギア情報やハウツーが多くて、人にフォーカスしたコンテンツはあまりなさそう。
241:そうなんよね。ハウツーは絶対YouTubeで見たほうがわかりやすい。でも誰かを深堀りするインタビューみたいなものは、文章でやる価値があるのかなと。今ってYouTubeを見て「おおっ」と思ってるような層に刺さるテキストメディアはなさそうな気がしてるんだよね。
RY:個人ブログとか小さいメディアでもないのかな?
241:俺も241MAGAZINEやるようになって、スノー系ブロガーをいっぱいフォローして見たりもしてるけど、人を取り上げてるのはほとんどないね。誰もやれてない領域だから、雑誌系メディアとYouTubeの間で、繋ぎ役みたいなことができたらいいなと。
RY:そこは大事なポジションだね。YouTubeではハウツーがどんな動画より再生回数が伸びるんだって。結局、そもそもが狭い業界だし数字も取っていかないと続けられないから、どうしても伸びるコンテンツに寄っていくよね。スノー系YouTuberがインタビューやトーク系の動画をもっと出したら面白いのに、とも思うけど。
241:それは俺も思って、毎週やってる記事用のインタビューをPodcast配信するのもいいかなとか考えた。
RY:それいいかも! スノーボーダーってみんな長距離ドライブするから、音声メディアは相性良さそう。
241:文章書くのはわりと好きだから今はブログという形でやってるけど、音声もありかもな。形はどうあれ、今話しながら思ったけど、俺が届けたいのって競技や趣味としての「スノーボード」というよりは、「スノーボードを含めたトータルのライフスタイル」なんやろな。スノーボード単体だけに向き合い続けても限界があって、ライフスタイルまで込みでようやくスノーボーダーとしてのスタイルができてく、みたいな。”スタイル”とは何かって話もあるし、ここ、かなり言語化が難しいけど。
RY:深い……。それはめちゃくちゃ気になるテーマ。
241:俺って怪我が多いからさ。そのたびにマジで無になっていろいろ考えるんよね(笑)。身動き取れずひたすら自分と向き合う時間が増えると、俺のやってきたこと間違ってたんかなとか落ち込んだり、今までがすべて無意味に思えたりして、結構毎回落ち込む(笑)。ノルウェーで経験したことや出会った人の影響もあって、スノーボーダーの生き方だったり、それがどうすれば世に伝わるかみたいなことはかなり考えてきた。
RY:ノルウェーの話、聞きたい! スノーボーダーのキャリアとかライフスタイルの話にも通じそうだね。面白い。じゃあ、そのあたりの話を後編で聞いていくね。
【後編】241MAGAZINEと語る、Z・ミレニアル世代スノーボーダーの生き方とキャリア観
241MAGAZINE https://241magazine.jp/
取材・文・編集 @ryokown
写真 インタビュイー提供