狭域型コミュニティメディアが「地域観光」を変える? 白馬オープンチャット管理人・佐藤さんの気づきと取り組み事例(後編)

by flumen編集部

長野県の白馬バレーで今注目を集めるメディア「THEDAY.HAKUBA」。

匿名で参加でき趣味のコミュニティなどに使われている「LINEオープンチャット」を使った、白馬バレー(白馬村・小谷村・大町市にまたがるエリア)の観光情報に特化したチャット型メディアだ。

開設者でコミュニティマネージャーの役割を担う㈱モンスタークリフの佐藤さん @otoshi_s は、開設してから2ヶ月の間オープンチャットの運営に没頭し、参加者を800名以上まで伸ばしてきた。チャット機能だけでなく、ノート機能を活用して観光情報をまとめ、地域事業者とのコラボレーションなど盛り上げるための施策も次々と打ち出す。

実際にどんな施策を行い、メディアとして成長させてきたのか? 開設してからの取り組み事例や気づきを聞き、他の地域への横展開の可能性について探る。

(前編はこちら)「場所観光」から「人観光」へ。これからの旅の形を探る、白馬バレー発チャットメディアの可能性

※LINEオープンチャットとは
興味関心や特定の話題についてトークルームを作り、友達以外のユーザーとも交流できるLINEの機能。匿名で参加できるため、趣味のコミュニティや企業広報のツールとして使われている。

地域を「回遊」してもらうために、飲食店とコラボレーション

佐藤さんは自身が開発・販売する「白馬の山を滑るためだけのスノーボード」を、地域密着型ブランドと呼ぶ。板をきっかけに滑りに来てもらうという目的はある程度達成でき、次は白馬のあちこちを訪れ「回遊」してもらうことが課題だと考えている。その手段として取り組んだのが、飲食店とのコラボ企画だった。

──観光地やスポットの紹介をする中で、飲食店とコラボしたのはなぜですか?

滑るために来て車中泊して帰っていくようなスノーボーダーでも、食事は必ずどこかでするよね。だからまずは飲食店だと思って、自分のSNSで「白馬に来たときどんな視点で飲食店を選びますか?」というアンケートを取ってみた。毎回決まっている/毎回違うところにする、という回答は2割ほどで、ほぼ決まっている/何も考えていない、という人が8割以上だった。

──特にこだわりがない、とも言い換えられますね。

そうなんだよね。きっかけさえあれば回遊してくれるポテンシャルがあると思った。それで、白馬八方でLUCE by ARISUE SPICEというレストランをやっている友達とコラボ企画をしてみようという話になって。

──LINEオープンチャットと飲食店のコラボ。どんな内容を?

チャット内のURLから引換チケットを手に入れてお店で見せるとコーヒーが無料になって、さらに「THEDAY.HAKUBA」のステッカーがもらえるという内容。しかも、同伴者も何杯でも無料にしたんだよね。

Hakuba openchat 2 3LUCEbyARISUESPICE
一番にオープンチャットとコラボした飲食店 LUCE by ARISUE SPICE
Hakuba openchat 2 1無料コーヒーとステッカー
無料コーヒーとステッカーをプレゼント

──それは大奮発ですね。

自分だけでなく同伴者も無料だったら友達や家族を誘いやすい。実際にデータを取ってみたら同伴率が60%、追加注文率が70%を超えていて、平均顧客単価が1,200円だった。つまりコーヒーだけ飲みに来る人は少なくて、このチケットをきっかけに食事もしてくれて売上に繋げることができたということ。

LUCE側はコラボをはじめてから「今まで来たことがないような層のお客さんが来た」ってびっくりしてたよ。今までは近隣ホテルに宿泊している観光客が主な客層だったけど、コアなスノーボーダーや、ステッカーを目的に来るような人も増えたみたい。

──新規のお客さんがステッカー目当てに来て、飲食もしていってくれると。

ステッカーはあえて事務所では渡さないようにして、希望者にはLUCEを案内してた。すると意外に「カレー美味しかったです!」「こんな良い店知りませんでした」という反応もあって。この仕組みがたくさんの飲食店と作れたら、可能性があるよね。

わざわざ会いには行かないけれど……。「聖地巡礼」型の観光スタイル

飲食店とのコラボを経て、もうひとつ面白い気付きがあった。LUCEの新規客の中には、THEDAY.HAKUBAやモンスタークリフ社のお客さんも多く、日頃からSNSで佐藤さんの発信を見ている人がオープンチャットをきっかけに来てくれるケースがほとんどだった。しかし彼らが佐藤さんに会いに事務所に来ることはなく、お店で飲食をするだけで帰って行く。その心理に後から気づいたという。

──お店には行っても、佐藤さんには会いに来ないのはなぜなんでしょう?

自分で言うのも変なんだけど、LUCEに来たお客さんにスタッフが「佐藤さんには会いましたか?」と聞くと、「何を話せばいいかわからないから会いに行けない、オンラインで見ているだけで十分なんです」という声がすごく多かったんだって。

──オープンチャットやSNSの発信をいつも見ていると親近感が湧くけど、いざ会いに行くのは尻込みしてしまうのかも。

そうなのかな。実は前から気になっていた動きもあって。うちの商品で「五竜ナイターモデル」という白馬五竜スキー場のナイター専用に作った板があるんだけど、それを五竜ナイターゲレンデに刺して「#聖地巡礼」というハッシュタグを付けてる人がいたんだよね。

五竜ナイターモデルを五竜ナイターに置き #聖地巡礼 と言うお客さんが

聖地巡礼って、アニメやドラマに出てきた場所を巡ることで、観光地の盛り上げ施策にも使われているらしい。それを知って「自分はアニメキャラなんだ」と思って。

──アニメキャラ……。

見てるぶんには面白いけど、実物に会う必要はないキャラクターのような存在(笑)。佐藤さんがいつも滑っているスキー場だ、よく紹介しているレストランだ、という感じで、アニメに登場した場所が本当にあったみたいな感覚で地域を楽しんでくれる人が一定数いるなと思って。

──聖地巡礼ツアー、できそうですね。

飲食店ならわざわざ会いに行く感覚じゃなくても、ふらっと立ち寄りやすいよね。オンライン上で見ていたお店や場所を巡る「聖地巡礼」に似た仕組みが作れれば、自然に地域内を回遊してもらえるんじゃないかと思って。

Hakuba openchat 2 9アニメキャラ

宿やお店がお客さんと繋がり続けるツールにも

オープンチャットを見て来店してくれる観光客が増えている実感もある。宿やお店のスタッフからお客さんに「THEDAY.HAKUBA」への参加を勧めてくれるケースも生まれ、地域内ではお客さんとの繋がりをキープするために活用されはじめている。

毎日ニュースを流し、要望に応え続ける。地域内からの信頼も厚い

──地域事業者さんたちからの反応はどうですか?

嬉しいことに「オープンチャットを作ってくれてありがとう」と言ってもらえることが多いよ。宿の人が泊まりに来たお客さんに「こんなチャットグループがあるから入ってみてくださいね」と紹介してくれたりしているみたい。宿も飲食店もアウトドア事業者も、お客さんにもっと白馬のことを紹介したいし、白馬を好きになってまた遊びに来てもらいたいという気持ちは同じ。でもそれを直接伝えるのは大変だから、という理由なんだって。

メールを送るのも営業っぽくなっちゃうし、SNSやWebサイトでの紹介にもそこまで時間を割けない人もいるよね。他の誰かが運営してるチャットに入ってもらう形なら紹介もしやすい。

──チャットに入れば勝手に巻き込まれてしまうのがいいのかも。

オープンチャットは常に動いてるから、入るだけで白馬の空気感や季節感を感じられる。この情報を知りたい!と思って調べなくても、桜が咲いたんだなーとか、今イベントやってるんだなーとか、いつ見ても白馬の“今”がなんとなく感じられる状態にはできてると思う。

Hakuba openchat 2 8桜の季節

──流し見するだけで白馬との繋がりを持ち続けられて、また白馬に来たくなったら、自分の宿に帰って来てくれるかもしれないですね。

お客さんと繋がり続けるために、このチャットを使ってくれている感じだね。宿の人と宿泊客の両方が入っていても、どちらもチャットの運営者ではないから、フラットに繋がっていられるのかも。

──みんなが平等に集まれる広場みたいな。いろいろな活用ができそう。

使い方は無限大だと思っていて。たとえば白馬に行くときだけ参加して、旅行が終わったら退出してもいい。スキー・スノボが好きな人は、ウィンターシーズンだけ入るのもあり。白馬に初めて来た人でも投稿しやすい空気を作って、旅行中にローカルに気軽に質問したり、困ったことがあれば投稿して誰かが助けてくれるみたいな場所になったらいいな。

白馬に来るときだけ参加してもOK。自分のペースで活用できる

宣伝投稿、オーバーツーリズム問題。操縦者として向き合う課題

観光客からも地域の人からも求められ、順風満帆かのように見えるオープンチャット運営。しかし参加人数が増えるにつれて、予想しなかった課題にも直面してきた。自分が立ち上げたチャットなのに「生き物みたい」と恐れる佐藤さん。一人の投稿で空気がガラッと変わることもあり、アメーバのように変形し続けるメディアの「操縦者」として、工夫していることや課題を聞いた。

Hakuba openchat 2 7オープンチャット

──人数が一気に増えると、苦労することもありそうですが、どうですか?

細かい問題は発生しているね。事業者さんがたくさん入ってくると、宣伝のような投稿も増えてしまう。観光客にとって役立つ情報なら宣伝も歓迎だけど、そればかりが増えるとよくない。じゃあどこまでならOKなのか、ルールを厳しく設けるのも違うと思うし、バランス調整には苦戦してるかも。

──観光客・観光事業者・地域住民で、求めるものが違ったりもしますか?

それも感じた出来事があった。白馬は昔、生活に支障が出るほど観光客がたくさん来るオーバーツーリズムも経験しているから、慎重な住民の方もいる。少し影響力が出てきたタイミングで住民の方に呼ばれて、足を運んでいろんな立場の人の意見を聞いて、情報を取り下げたこともあったよ。それだけ興味を持ってもらっているのは、ありがたいことだよね。

──人間の投稿で成り立ってるから、空気感の調整も難しそうですね。

そうだね。全員が好き勝手に投稿すると、流れも追えなくなってくる。でも投稿の量や内容を指定することはできなくても、ある程度はコントロールできるんだなというのは、やってみてわかってきたことかな。

──コミュニティマネージャーの役割って大事。

本当にそう思う。雰囲気づくりってできるんだなと思っちゃって。右に傾いたら左に寄せた
り、前に傾いたら後ろに寄せたり、微妙な動きで空気は変えられる。逆に操縦者がいないコミュニティはすぐに崩壊するなというのが、最近感じていること……。

Hakuba openchat 2 12メディア
わずかな隙間時間にもオープンチャットと向き合う

──もう立派なメディアですね。

普通のメディアは一方通行だけど、これは掛け合いだから、常にウォッチしていないといけない。すごい大変で時間も労力もいるから、やる人はかなり少ないと思う。自分でもなんでここまでやっているのかわからない(笑)。

地域の観光に活かせる? 狭域型コミュニティメディアの未来

特定の地域に特化した、狭域型コミュニティメディア。「地域観光」を盛り上げる新たなツールとして、地方自治体から運営について問い合わせもあるという。非常にユニークで可能性を感じるメディア形態だが、他の地域での再現性はあるのだろうか。

──白馬バレーがモデルケースになって、他の地域でも増えると面白そうです。

そうなったらいいよね。他の地域から運営についての質問も来ていて、狭域型コミュニティメディアとしての事例はまだ少ないから、アドバイスできることはあるかもしれない。地域のファンを増やすという意味では相性がいいと思う。

──「観光」「地域活性化」「街づくり」などの観点で、活用ができそうですね。

活かせる地域も多いかも。ただ他の地域と比べたときに、白馬の場合は圧倒的なハードの強さがあるというのが大きな違いかな。山や自然に恵まれていて天然のハードは完璧だから、ソフト面を強化することで変化が見えやすいと思う。ハードが弱い観光地がソフトの力だけで盛り上げ直せるのかというと、また別の話になるかな。

圧倒的なハードの力を持つ白馬バレー

──地域の特性によって上手くいくやり方も違いそう。単純に真似してもダメなのかも……。

運営していると、どういうオープンチャットが上手くいくのか気になってきて、他のグループに70個くらい入ったよ(笑)。芸能人のファンコミュニティや、全く興味のない話題のものも含めて。そうしたら、さっきの話にも通じるけど、やっぱり管理者が真ん中にいるかどうかでチャットの雰囲気はかなり変わるなという発見があって。管理者不在のグループで上手くいっているケースはなかった。

──ということは、専属の担当者を立てないといけないですね。

そこがかなりハードルにはなると思う。管理者が「皆様ぜひ白馬へお越しくださいませ」と書くのと、「みんな白馬に遊びに来てね!」と書くのとでは、全然違う空気感になっちゃうから。そういう微調整も必要だから、運営にはかなりパワーがいるね。自分も今かなりの時間をかけているし、ずっと動きを追っていないといけないから、片手間では難しいかも。

寝ても覚めてもオープンチャットの生活をする覚悟はあるか

──横展開の可能性はあるんでしょうか? ここから何を目指しますか?

オンライン空間の空気づくりってかなり深くて、同じ「白馬」という場所でも、誰がやるかで全然違うものができてくると思う。絶対に同じ形は作れなくて、世界にたったひとつの空間になる。

他の地域でも上手く行けば面白いけど、「こうすればいい」という正解は見つかっていないのが正直なところ。でもきっと「観光」に貢献できるメディアになるというのは信じてる。出口もゴールも見えないし、どうなりたいというのは今はわからないけど、参加者1000人を目標にこのまま頑張ってみようと思ってるよ。

・・・

本記事の公開時点で、参加者数は900名強。このまま多くの人を巻き込み続けるのか、新たな展開が待っているのか。行く末を見届けたい人も歓迎しているため、今からでもぜひ参加してみてほしい。

LINEオープンチャット「THEDAY.HAKUBA」の参加はこちらから
白馬の山を滑るためだけのスノーボード THEDAY.HAKUBA https://hakuba-special.jp/
佐藤さんTwitter https://twitter.com/otoshi_s
佐藤さんInstagram https://www.instagram.com/atsutoshi_monster_cliff/

取材・文・編集 @ryokown
写真 インタビュイー提供、@ryokown

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