サッカーといえばJリーグ、バスケといえばNBA。スポーツにはそれぞれ、観て応援することで誰でも楽しめる大会が存在している。ではスノーボードの世界はどうだろうか?
今回取材した「COWDAY SLOPE(以下、COWDAY)」は、コースに設置された人工アイテムを技を決めながら滑り降りる、スノーボードスロープスタイルの大会だ。演技性が高くエンターテインメント要素が強いため、まさに「観て応援する」のにうってつけの大会といえる。
2015年から続くCOWDAYだが、エンタメとして「観たい!」と思ってもらえる大会を目指して、先シーズンに写真・映像・デザインなどを刷新してきた。その裏でスノーボード×クリエイティブ領域を追求してきたのは、COWDAYクリエイティブディレクターの野本かもめさん。具体的にどんなところを変えてきたのか、詳しく取り組みを伺った。
野本 かもめ
クリエイティブディレクター
東京藝術大学デザイン科卒、大手広告代理店で勤めたのち、クリエイティブスタジオSTUDIOHOLIDAYを経て独立。現在は長野県白馬村に拠点を置き、スノーボードや町おこしを中心に、ブランディング、イベント、キャンペーンまで幅広いプロジェクトを手がける。
国内最高峰、勝ち抜けば世界へ。COWDAYという大会
COWDAYは毎年冬に、長野県白馬エリアのスキー場「Hakuba47 Winter Sports Park」で開催される。最近盛り上がっている印象はあるが、改めて、具体的にやってきた取り組みの全容を聞いていく。
──COWDAYについて今日はいろいろ詳しく聞かせてください。まずはどんな大会か教えてもらえますか?
COWDAYは日本国内では最高峰のスノーボードスロープスタイルの大会です。全部で3つあるアジアカップのうちの1つで、ワールドカップ出場権をかけて競い合います。メインスポンサーの牛乳石鹸さん(*)の熱い想いに支えられ、先シーズンで10周年を迎えました。
(*)100年の歴史がある石鹸やシャンプー等のメーカー牛乳石鹸共進社株式会社
──かもめさんは、いつからCOWDAYに関わるようになったんですか?
出会いは私がスノーボードにハマったばかりの2021年頃です。当時勤めていた広告代理店は、自分で取ってこなければ仕事がない環境で、好きなことを仕事にしたくてスノーボード関連のプロジェクトを探していました。あるとき岡本圭司さん(当時のCOWDAY運営トップ)がTwitterで募集しているのを見つけ、なんでもいいから関われないかなと、DMを送り企画書を持って突撃しました。
──自分からアタックして出会ったんですね。COWDAYの最初の印象はどんな感じでしたか?
トップ選手が出ている大きな大会というイメージでした。最初は単発のデザイン制作依頼でしたが、そんな大会に少しでも関われてすごく嬉しかったです。
でも深く関わるようになると、課題や現実も見えてきました。国内最高峰の大会だというのに、運営スタッフ数名で回しており、関わる人の熱意でようやく成り立っているようなところがありました。もっと私にできることがありそうだなと思うようになりました。
クリエイティブの力で変えられることはもっとある
デザイン面から課題解決をしてきたクリエイティブディレクターの視点で向き合うと、やるべきことが見えてきた。少しずつ関わりを深くし、2023-24シーズンのCOWDAYではさまざまな点を変革し、視覚的インパクトで目指したい方向性を伝えていった。
──クリエイティブの観点から、COWDAYを見てきてどうでしたか?
最初の年は外部デザイナーとして、ロゴやポスターを作りました。でもデザインするにも写真素材がなく、撮影予算も組まれていなかったので、イラストでそれっぽくするくらいしかできなかったんです。
ちょっとお洒落でいい感じにはできたけど、これを見ても「大会を観に行きたい!」とはならないですよね。ポスターって、広報や集客といった目的のために作るもので、大会の魅力は何か?どうやって伝えるか?といった戦略をしっかり練らないと、なかなか効果が出ません。はじめは、運営チームとそこまで深く話し合うことができず、果たしてこのポスターでいいのか自信がありませんでした。
──どうすればデザインの力を活かせると思いましたか?
COWDAYの魅力とは何なのか、大会の方向性やブランドとしてのあり方を一緒に整えてからビジュアルで表現していく、という一連の動きをやりたかったんです。もっと根幹からデザインの力を活かすためには、COWDAYそのものを一緒に作り上げる立場になる必要がありました。運営チームと一緒に滑ったりもしながら関係値を作っていき、気づけばチームの一員に。先シーズンからやっと意見が言える仲になっていきました。
──今年のポスターは、選手の写真が並んでいてぐっと印象が変わりましたね。どんな考えで作ってきたのでしょうか?
とにかく現地に観に来てほしくて。お客さんにとってCOWDAYを観に行きたくなる一番の理由はなんだろう?と考えたときに、やっぱり「選手」だなと思ったんです。実力があるトップ選手が出ていることがCOWDAYの一番の魅力なので、選手の顔が見える「写真」が必要でした。
選手を撮らせてほしいと運営代表にお願いしたのですが、冬目前で選手たちは忙しいからと断られてしまって。でもどうしても写真が欲しくて諦めきれず、なんとかねじ込んでもらえないか頼み込み、「明日なら撮れるかも……」「じゃあ明日行きます!」みたいな感じで押し切りました(笑)
急に決まって背景を考える余裕もなかったので、一人ずつバラバラで撮って後からくっつけてデザインしました。最初から計画していればレイアウトも考えられたなと反省も残りますが、写真が撮れたのは大きかったです。
──新しいポスターに反響はありましたか?
ありましたね!公開したらSNSで嬉しい投稿がありました。今年のCOWDAYはちょっと空気感が違うぞ?と思わせられて、「エンタメにしたい」という方向性もはっきり示せたと思います。ポスター1枚で「そういう大会を目指してるんだね」とわかってもらえて、ビジュアルのパワーは大きいなと感じた体験でした。
選手一人ひとりにキャッチコピーをつけ、SNSで発信
ポスター以外にも、細部までクリエイティブを変えてきたことで、当日は会場観客1000人以上、ライブ配信同時視聴数1500人以上を達成。エンタメとして認知してもらうために、COWDAYがやってきた工夫の数々を教えてもらった。
──他にもクリエイティブで工夫したことはありますか?
「選手一人ひとりにキャッチコピーをつける」というのをずっとやりたくて、今年ようやく実現できました。スノーボードの大会って、滑る人が見たら技の難易度もわかって面白いけど、一般の人にとっては何がなんだかわからないだろうなと思ったんです。選手一人ひとりの背景ストーリーも見せることで、ファンになってもらいたくて。他のスポーツ大会ではよく見かけるやり方ですが、今までのCOWDAYはできていなかったんです。
──フィジカルモンスターとか、スタイルクイーンとか、ユニークなコピーが多いですね!
選手のことをよく知っているコーチに協力していただきました!スノーボードって滑走中は顔が隠れているので、顔も名前も知らない選手が次々に飛んでいくだけでは感情移入しづらいですよね。選手の映像とキャッチコピーで構成した短いムービーを作って、ドロップ(滑り出し)の前に流したりもしました。選手自身にも当日まで伝えていなかったので、サプライズ演出としても楽しんでもらえました。
──現地に大型ビジョンがあったのもエンタメ感があってよかったですね。
コースで生の滑りも観られて、その横では大きい画面で大音量で実況が鳴り響くようにしました。選手を知らない人やスノーボードの大会を初めて観る人にとっても単調にならないように、飽きさせない現場づくりを頑張りました。
あとは基本的なことですが、小さいフライヤーを作って大会数日前からゴンドラに乗るお客さん全員に配ったり、当日にはゴンドラ乗り場にポスターを貼ってイベントやってる感を醸し出したり、手元で読める選手紹介パンフレットを配ったりもしました。
──SNSもマメに更新していましたね。
事前告知として選手紹介ムービーをInstagramに流したら、再生数がけっこう伸びて、顔と名前を覚えた状態で会場に来てもらえたのはよかったです。また、その場で盛り上がってもWEB上に残らないと多くの人に届かないので、当日はすべてFPVドローンで撮り、特によかった選手のランは当日中にSNSにアップしました。映像チームと一緒に、これで合ってる?ハッシュタグ大丈夫?とか言いながら、夜遅くまで作業して。
──スノーボードの大会って、内輪ノリになりがちなところ、お客さんの方を向いているのが伝わります。
やっぱり「選手のラン」がCOWDAYの一番の魅力なので、それを丁寧にコンテンツ化していくことを頑張りました。すでにエンタメ化している他のスポーツからすると、きっと当たり前のことばかりです。だけどそういう基本をしっかりやりきることが、今のスノーボード業界では大事なんだと思っています。
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そんなCOWDAYはこれからどこを目指す? 浮かび上がってきたのは「観るスポーツ」としてのスノーボードの可能性。後編では、スノーボードを興行ビジネス化していく上で考えていることについて聞いていく。
誰もが楽しめるエンタメに──スノーボードの興行ビジネス化を目指す「COWDAY」の奮闘(後編)
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