誰もが楽しめるエンタメに──スノーボードの興行ビジネス化を目指す「COWDAY」の奮闘(後編)

by flumen編集部

スノーボードスロープスタイルの大会「COWDAY」は、スノーボードのエンタメ性やアート性を引き出し、興行として成り立たせることを目指している。

では今現在、そういう大会がないのはなぜなのだろう?日本におけるスノーボードの歴史はたった50年弱、スキーを辿ってもせいぜい100年ほどしかない(*)。野球やサッカーと比べて歴史が浅く、スロープスタイルが冬季五輪種目になったのは、今からほんの10年前のことなのだ。長いこと技術やスピードを競ったり、仲間同士で楽しんだりするものだった「大会」が、ようやくエンターテインメントとして発展する段階にきた、ということなのかもしれない。

COWDAYが描くのは、格闘技イベント「RIZIN(ライジン)」のような世界観だ。選手個人にファンが付き観衆が沸く「興行ビジネス」としてのスノーボード大会──。引き続き、アートディレクターの野本かもめさんに話を聞いていく。

スノーボード業界にクリエイティブの力を。スロープスタイル大会「COWDAY」が変えてきたこと(前編)

(*)日本スノーボード協会が1982年に発足。全日本スキー連盟は1925年に発足。

野本 かもめ
クリエイティブディレクター
東京藝術大学デザイン科卒、大手広告代理店で勤めたのち、クリエイティブスタジオSTUDIOHOLIDAYを経て独立。現在は長野県白馬村に拠点を置き、スノーボードや町おこしを中心に、ブランディング、イベント、キャンペーンまで幅広いプロジェクトを手がける。

“観る”スポーツとしてのスノーボード

前編ではCOWDAYのクリエイティブ面の取り組みを紹介した。変化を起こしてきた背景には、「観るスポーツ」としてのスノーボードを確立したいという想いがある。

──COWDAYとして「観る」にフォーカスしているのはどうしてですか?

「スノーボード業界を盛り上げたい!」という気持ちで、レッスンをしたり、YouTubeでハウツーを発信したり、滑る様子をSNSでシェアしたり、「やる人を増やす」ために行動を起こしている人はすでにたくさんいます。だけど別の軸で「観る人増やす」アプローチがもっとあってもいいと思ったんです。

──自分ではやらないけど観て楽しいスポーツってたくさんありますよね。

フィギュアスケートとか、まさにそうですよね。観るのは盛り上がるけど、自分でやる人は少ない。サッカー、バスケ、テニスのような、学校でも習うくらいメジャーでテレビでも観れるようなスポーツと比べると、スノーボードはやる人も観る人も少ない状態。いきなり超人気スポーツにはなれないから、両方からのアプローチが必要だと思いました。

現地観戦も盛り上がり、選手と距離の近い大会に Photo by tonko

──スノーボードは「やる」ハードルが高いというのもあるんでしょうね。

そうなんです。スノーボードは移動してスキー場に行かなければできないし、最近はギア(道具)やリフト券の価格も高騰していて、ものすごくハードルが高い。さらに車を持っている若者や子どもの数も減っていて、雪自体も少なくなってきています。

滑る人を減らさない努力はできても、ここから爆発的に増えることは難しいと思うんです。だからこそ「観るスポーツ」として世の中に売り込んでいくアプローチが大切で、COWDAYはそういう存在になれるんじゃないかと。

興行ビジネスとして成り立ち、稼げる大会になるために

ライブ配信中のMC Photo by tonko

現実的な話、今の社会で何かを持続させるには、ビジネスとして成立していることが不可欠だ。選手、運営者、クリエイター、スキー場、皆がしっかり収入を得て持続可能な大会にしていくには、どうしたらいいのだろうか。

──ストレートにいうと、持続可能であるために「稼げる大会」を目指しているんですね。

今はスポンサーさんの協賛金に頼りきりなところがあります。もっと資金力があればもっとできることが増えるけど、個人の熱い想いでなんとか成り立っていて、バイブスで動いている。これではライダーも稼げない。お金の循環を変えていかないと。

──バイブスで成り立っている感じ、わかります。何が課題だったのでしょう?

まず何より「遠い」というのが大きいと思っています。都市部からアクセスしやすい場所にすでに面白いスポーツがある中で、会場に行くだけでお金がかかる雪山がフィールド、というのはめちゃくちゃハンデだなと思いますね。それに雪山に来る人は自分が滑りたくて来ているので、たとえCOWDAYが今より有名になれたとしても、サッカースタジアムが埋まるレベルで現地観戦が盛り上がるのはちょっと無理だなという感覚があります。

──そういう意味では、オンライン観戦にも力を入れていくんですか?

そうですね。今は時代的にドローンで追い撮りができるようになったし、映像もリアルで観るのと変わらないくらいきれいです。ライブ配信の技術も進化し、配信プラットフォームも育ってきています。オンラインで映像を観ることも習慣化してきたので、そこに糸口があるのではないかと思い、YouTubeやSNSにも力を入れています。

現地から行ったライブ配信は、今もYouTubeで観ることができる
選手のランや滑走後インタビューをひとつひとつReelに

ヒントは推し活? 誰もが選手のファンになれる世界線

選手たち Photo by tonko

COWDAYがひとつの可能性として考えるのは、年間を通して選手の活躍を追い続けられるファンビジネスのような形態だ。スター選手が生まれたり、選手の成長を応援できたり、観続けるからこそのドラマがあったり。冬のスポーツにとどまらず、通年型コンテンツとしての面白さを追求していく。

──COWDAYが言う「選手のファン」というのは、好きな歌手やタレントを推すようなカジュアルな感覚なんですかね。

それにも近いと思います。スポーツ選手でも歌手でも、誰かのファンになって応援したいと思ったとき、チケットやグッズを買うという応援の仕方がありますよね。でも今あるスノーボードの大会って、無料で観戦できてモノもあまり売っていないので、ファンのお金の使いどころがないんです。

興行スポーツの多くは「チケット収益」と「物販収益」で回っていますが、来るだけでお金がかかるスノーボード大会でチケットを有料化するのはリスクのほうが大きいので、「物販」に可能性があります。他のスポーツでは観戦用タオルや選手のユニフォームといった応援グッズがあるように、ファンが購入したくなるモノが作れればいい循環ができると思っています。

──たしかに。他のスポーツと比べたら、商業色がだいぶ薄いですね。

そうなんですよね。だからといって、スノーボードはカウンターカルチャー的なところから発祥している背景もあるので、いきなり「選手のサイン入りポスターが発売です!」と大衆向けに売り出してしまうと、選手もファンも戸惑ってしまいそうで。マスに寄せすぎてスノーボードならではのかっこよさが失われることにならないように、慎重に変えていこうとしています。

Photo by tonko

──スノーボードのかっこよさや個々のスタイルを壊さずに、商業として成り立たせる。難しそうだけど、うまくいけばお金の流れが変わりそうですね。

だから来年はクラウドファンディングに挑戦しようかと思っているんです。選手のグッズを直接購入するのではなく、選手の待遇改善などに使う費用として応援を募り、グッズがそのリターンとしてある形です。ワンエクスキューズを挟むことで、少しずつ「推し活」のような形が受け入れてもらえたら嬉しいです。

今の業界では、すごく上手いライダーでもメーカーからの物品提供があるくらいで、スノーボードで食べていける人はひと握りです。なんとかしてあげたいと思っている業界の人は多いので、ひとつの解決策が「推し活」なんじゃないかと思っているんです。自分ではスノーボードをしない人が、“推し”選手のグッズを買って応援する世界は実現できる気がするので、その道を探っていきたいですね。

スノーカルチャーと両立させる絶妙なクリエイティブ

クリエイティブ領域においても、スノーカルチャー特有のかっこよさを崩さずに商業化していくには、絶妙なバランス感覚が求められる。COWDAYの展望を聞いていくと、「ダサくせずに大衆に届ける」ためのアートディレクターとしての信念が感じられた。

──これからのCOWDAYはどんな形になっていきますか?

冬の準備だけでなく、夏から動いて年間を通した興行にしていきます。7月に大阪KINGS(*)で『COW×KIN』というイベントがあるのですが、同じ牛乳石鹸さんプレゼンツなので繋がりが見えるようにCOWDAYのチャネルから発信していく、ということをまずやります。

8月には『白馬駅前ストリートフェス』で小さなジブを作り、選手のパフォーマンスをする話を進めています。地元との繋がりを強化したい目的もあり、スノーボードをしない人にもそこで選手を知って、興味をもってもらいたいなと。エクストリームスポーツって、一般の人が観てもすごく盛り上がれるので、冬以外も地域のお祭りやイベントに参加して、雪上でも観たい!と思ってもらえるきっかけにしたいです。

(*)大阪にある日本最大級のスノーボード&スキーオフトレ施設

──そこにクリエイティブの力はどういう形で貢献していくのでしょう?

説明資料を作り込んで伝えようとしてきたことを、ビジュアル一発で伝えられるのがクリエイティブの力だと思っています。私の役目としては、「エンタメであり興行ビジネスだけど、スノーボードカルチャーそのものでもある」というCOWDAYらしさが一目で伝わるような表現を追求していきたいですね。

会場装飾や演出まで含めてやりたいことはまだまだあります。私自身、スノーボードに出会って人生が楽しくなったので、その楽しさを伝播させて一緒に楽しめる仲間を増やしたい。それを感覚的に作れるのがクリエイティブだと思っています。

──アートディレクターとして、どんなクリエイティブを理想としていますか?

今年はエンタメにしていく第一歩としてやることはやれたけど、今振り返ると、スノーカルチャー特有の美学に沿うともっと違うものが作れたんじゃないかと思うところもあります。

ただ単に技の難易度や回転数だけを競う大会とは思ってもらいたくなくて。たとえばみんなが難しい技を決めていく中、めちゃくちゃかっこいいB1(半回転)で会場を湧かせる選手もいます。そういうアート性も表現していきたいですね。エンタメとして誰でも楽しめつつ、スノーカルチャーの美学も感じてもらえる、ギリギリのラインを探っていきたいです。

──最終的にCOWDAYが目指すことはなんでしょうか。

「選手を応援し、育てる」ということがCOWDAYの究極目標です。それはスキル的な面のバックアップもあるのですが、COWDAYという大会の力で選手を有名にして、スノーボーダーとして生きていける人を増やすことだと思っています。

世に広く浸透していけば、スポンサー企業さんも増え、メディアにも取り上げられて話題になって、有名になった選手にファンがつき、スノーボードで食べていけるようになっていく。そんな未来を描いています。それをクリエイティブの力で最大限プッシュしていきたいですね。

・・・

季節も場所も限られたスポーツであるがゆえに、収益構造に課題があったスノーボード。これからはデジタルとクリエイティブの力で、その制約を飛び越えて、通年型エンターテインメントとして売り出すことができる。そんな未来への期待を感じさせてもらった取材だった。7月から本格的に動き出すCOWDAY、夏から秋にかけての動きにも注目していきたい。

COWDAY Instagram @cow_day_00

Edit&Write @ryokown

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