地形密着型スノーボードブランドとして白馬から世界の山へ。THE DAY.HAKUBAの挑戦(後編)

by flumen編集部

白馬村のLINEオープンチャットが、2024年3月をもって閉鎖する。操縦者として2年間運営にコミットしてきた佐藤さん @otoshi_s は今、自分のスノーボードブランドに全集中力を向けている。

観光客向けオープンチャットも、買ってくれた人の満足度を上げ、スノーボードブランドとしての価値を高めることが目的だった。ブランドの方向性が変われば、チャットの存在意義も変わる。THE DAY.HAKUBAの新たな挑戦と向かう未来を聞いた。

【前編】白馬村の観光を支えたオープンチャット、閉鎖へ ── 地域密着型スノーボードブランドの貢献

改めてスノーボードづくりに向き合いたい

閉鎖の理由をシンプルに説明するなら、ブランドの進みたい方向性を見直した結果、チャットが役目を終えてしまったから、といえる。もう少し踏み込むと、緻密で奥が深いスノーボード開発と向き合う姿が見えた。

──オープンチャットの閉鎖を考え始めたのはいつ頃だったのでしょうか。

昔から何ごとも「まずは2年間、全力で」と決めていて。だから区切りの時期は最初から意識していて、そのときが近づいてきた去年の夏頃から考えるようになった。形を変えて続けるのか軌道修正するのか、先のことはずっと考えてきた。

──それで、2年を目前にしてどうなりましたか?

ブランドが明らかに転換期を迎えている、というのが大きいね。今シーズンは加速度的にお客さんが増えた実感があって、今まで以上に自分が乗りたいボードのレベルを引き上げて、もっと納得するスノーボードを作りたい気持ちが強くなった。

それと同時に、生産している海外の工場の技術や機械のレベルもどんどん上がっていて、自分がスノーボードづくりを始めた4年前とは比較にならないくらいできることが増えている。工場の進化に追いつくためにも、もっと勉強して知識とスキルを磨かないといけない。

冬は毎日雪上でテストライドし、感覚をボードに反映させていく

──まだまだ新しいスノーボードを作るんですね。

うん。作りたいと思っているアイデア段階のボードだけであと57本ある。

──57本!?

15本くらい作ってきて、今テスト中のボードが8本くらい。ブランドも4年目になって、2本目、3本目のボードを買ってくれる人も出てきたんだよね。でも実は今季、100本生産したけど乗り味に納得がいかなくて、販売中止にしてしまったボードがあった。期待値が高かったモデルだけにすごく悔しくて。

たとえば美味しかったラーメン屋があって、また行きたいと思ったとするでしょ。だけど次に行って味が落ちていたら、もう二度と行かないよね。来年はもっと2・3本目を買ってくれる人が増えるはずだから、今はそういうステージだと思ってすごく慎重になってる。

事務所には開発中ボードの図面やデザイン案が所狭しと貼られている

世界中のスノーリゾートを回り、各地でボードをつくり続けたい

佐藤さんには何年もずっとブレない夢がある。それは子育てを卒業したら、奥さんと2人で世界中のスノーリゾートを旅して回ること。そして、行く先々の山に特化したスノーボードをつくりながら旅を続けること。THE DAY.HAKUBAが、THE DAY.EARTHに──?

──その土地ごとのスノーボードをつくり続けながら世界中を旅する。素敵な夢です。

それを成し遂げたら死んでもいいと思えるくらい、人生で一番やりたいことだね。アメリカのこのスキー場のこのクリフを飛ぶにはこんなボード、ヨーロッパのここのスキー場の雪質や地形を楽しむならこんなボード、という頭にあるイメージをどんどん形にしていきたい。

昨年訪れたアメリカ・オレゴン州のMount Hood(マウント・フッド)

──ローカルからグローバルへ、ということですか?

うーん、それともちょっと違って、ローカルブランドの集合体みたいなことなのかな。だけど海外のスキー場ごとに回遊の仕組みを考えるのは現実的ではないから、地域を盛り上げる発想は一旦白馬に置いて、山の地形や雪質をもっとマニアックに探求する「地形密着型」でいくことにした。

──「地形密着型」について、スノーボードをしない人にもわかるように説明してほしいです。

えっとね、たとえばこれは「残パウモデル」といって、みんなが滑ったあとの残ったパウダーを楽しく滑るというコンセプトのボードなんだけど。残パウって凸凹でモフモフしてるでしょ。ノーズ(前側)が尖ってると突き刺さっちゃうから、雪を潰せるように上を切った形状にして固めに作ってある。さらにテール(後側)の引っかかりをなくすために、後ろはドライブしやすいピンテールに。前で雪を破壊して、後ろで撫でる。

破壊して、撫でる

──わかりやすい!

これは一例だけど、同じ横に広い斜面でも大きく3ターンで滑りたい人もいれば、細かい10ターンで滑りたい人もいるように、同じ斜面でも人によって滑り方は違う。太さや硬さ、長さ、形状、1ミリ変わるだけで乗り味が変わって正解はないから、こう滑ったら楽しそうだなっていう主観から答えを出していく感じかな。

テストボードが形になるまでに1年、雪上でテストライドを重ねて微調整に1年。1本のボードを作るのに最短2年はかかるスパンの長い仕事だ

価値を高めて、一本に長く乗ってもらえるブランドに

少量を勢いよく販売し、すぐに生産終了にしてしまうのもTHE DAY.HAKUBAの特徴だ。さらにすべてのボードには買取保証がつき、手放したくなったら元値の50〜80%程度という高値で買い取ってもらえる。ALL3万円+税にこだわり、そもそもが破格だというのに。これらの仕組みはすべて、自社製品の価値を高く保つためにあえて設けられている。

──もっと売れる可能性があってもどんどん次のボードに着手するのは、なぜなんですか?

スノーボードとして価値が高い状態ってなんだろうと考えた結果、一本を長く大切に持ちたくなることかなと思ったんだよね。ずっと大切に持ってるものってあるでしょ?たとえば奥さんからもらったラブレターや、小さい頃遊んでいたミニ四駆。そういう「自分にとっての価値の高さ」という尺度を横軸として、流通が少なくレアで高く売れるというような「相手(市場)にとっての価値の高さ」という尺度が縦軸にあるとする。THE DAY.HAKUBAはこの両軸のピークのところを目指して、ずっと持っていたくなるボードにしたい。だから大量には作らないし、価値をキープしたままどんどん次に行く。

佐藤さんが大切に今も持っているミニ四駆。自分にとっては唯一無二の価値がある

──オープンチャットも価値を高めるためのひとつの要素なんですね。

そう。だからチャットを閉鎖すると今までのブランド価値は下がるけど、そのぶん新しいコンセプトで満足度を上げられるように、TDH(THE DAY.HAKUBA)オーナー向けチャットには力を入れるつもり。今まではメディア機能にチャットが付いてる感じだけど、これからはチャットを中心に据える。議論や仲間内の会話もしやすい、もっと距離の近い空間にしていく。

新しい価値を創出するには、やっぱり何かを切り捨てないといけない。今回はそれが観光客向けオープンチャットだった。やりたいことが多くて時間が足りないから、大きく外して大きく動いていきたい。

ローカルブランドとまちづくり。これからの白馬との関わりは

閉鎖の理由を聞いていくと、「ブランドとコミュニティ」の話になった。ローカルブランドとしてTHE DAY.HAKUBAがやってきたのは、地域活性やまちづくりにも近かった。これからも白馬に住みスノーボード開発に勤しむ佐藤さんは、地域とどのように関わっていくのだろうか。

ふざけているようでいつも真面目

──「スノーボード × まちづくり」と言われたりもしたと思いますが、そういう視点はあったのでしょうか。

観光について学んだり観光業の人と話したりする中で、「まちづくり」の考え方を知った。行政やDMOがやるような難しい部分もあるんだろうけど、自分なりにやってこれたのは「人と人をつなげる」ことに尽きるのかなと。

地域内でも意外と知らない人同士はいるから紹介し合ったり、観光客と村民も出会わせたりしてみると、それだけでもシナジーが生まれて、まちってすごく変わるんじゃないかな。

──オプチャを通じた出会いに救われた人も多いと思います。それでも閉鎖を決めた今、どんな気持ちですか?

やっぱり寂しいね。なんか……卒業式みたいな気持ち。仲の良いクラスでずっと過ごしていたいけど、お別れのときがきてしまった、みたいな。閉鎖するのは心苦しいけど、お世話になった人たちに挨拶に回って、お礼を伝えていきたいと思います。

──これからは白馬とどう関わっていきますか?オープンチャットに関わってくれた人たちにメッセージをお願いします。

白馬にはいるし、オプチャから生まれた一部の活動や村ガチャも継続する。白馬はやっぱりすごくいいところで、冬のイメージが強いけど春も夏も秋もアクティビティが楽しい。何より住んでいる人が個性豊かで、新しい挑戦も受け入れてくれるマインドがある。これからも求めてくれる人がいたらいつでも力になりたいなって思ってます。

地域の方々も、観光客の方々も、たくさん応援や期待をしていただいたことには本当にむちゃくちゃ感謝しています。初期の頃から入って、発言はしなくても今日まで抜けずにいてくれた人たちにもお礼を言いたいです。面倒な展開になって退出したくなるタイミングが絶対あったはずだけど、それでも離れずに見守ってくれたのはかなり力になりました。

伝えたいことは感謝だけです。本当にありがとうございました。31日の夜は最後のライブ配信をやって、盛り上げてクローズしようと思ってます。みんな聞いてね!

・・・

卒業シーズン。大事に育ててきたひとつの場所と、お別れをしなければならないとき。佐藤さん自身も、いつもどおりランチの写真をアップしつつ「これも4月からなくなるのかー」と寂しそうにしていた。閉鎖したあとは、気になってしまうから白馬に限らずすべてのオープンチャットを退会して、やるべきことに集中するらしい。

白馬に多大なる貢献をしてくれた佐藤さんを激励して、これからの挑戦を見守らせていただきましょう。本当にお疲れさまでした!

【前編】白馬村の観光を支えたオープンチャット、閉鎖へ ── 地域密着型スノーボードブランドの貢献

佐藤さんが運営してきた観光客向け&村内向けオープンチャットは2024年3月31日をもって閉鎖します。それに伴い、最終日の3月31日にライブトーク機能を使って卒業式を行います。スペシャルゲストを招いて2時間半しゃべり続ける最後のトーク。オープンチャットからご参加ください!

【卒業式!最後のライブトーク2時間半SP】

✅日程:2024年3月31日(日) 21時〜23時半 ※その後23:59に閉鎖予定
✅トーク内容:過去1年間の投稿数ランキング発表、ゲストからの贈る言葉、過去の感動秘話、炎上秘話など。スペシャルゲストと共に2時間半しゃべり続けます。オープンチャットであったすべての出来事を深堀りし、当事者も一部出演予定。最後のライブトークですべてをぶちまけます!お楽しみに。

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