国内外から熱狂的なスキー・スノーボード愛好家が集まり、「パウダースノーの聖地」と言われるようになった北海道・ニセコエリア。前回訪れた2019年3月から丸3年ぶりに訪れてみると、当時建設中だった建物が完成し、伏線回収ができたような滞在に。コロナ禍によるインバウンド客激減の影響を受けながらも、今なお静かな勢いをもった街の姿がありました。
ニセコの不動産といえば、分譲マンションのように売買される高級コンドミニアムが名物。長期的視点を持った投資家が多いため、世の中が大きく変化したこの2年間でも売却はほとんどなく、富裕層による物件購入は止まらないそう。
投資が進むことで地域としてのブランド力が高まり、それにより不動産の資産価値が向上し、投資がまた次の投資を呼び寄せる。コロナ禍を経た現在も、ニセコではそうした好循環が起きているようです。
海外観光客こそ来なくなったけれど、海外投資家のおかげで地域の価値は高まるばかり──。約一週間のステイで見えてきた、かつて外国人たちで溢れたリゾートの現在をレポートします。
外国人が来なくなった街、ニセコ。ひらふエリアは閑散と
ニセコの中心街ともいえるのが、メインストリートであるひらふ坂を中心に広がるエリア。ひらふ坂脇にある建物の8割は外国資本なのだそうです。こちらの写真は3年前に訪れたときのもの。
十字街を境にアッパーヒラフ、ロウワーヒラフと分けられていて、ロウワーヒラフのほうには別荘として使われるコンドミニアムがさらにたくさんあります。こうした建物に一週間から数ヶ月ステイし、天気や雪のコンディションがいいときを選んで滑り、自宅のようなキッチン付きの部屋でくつろぎ、街を飲み歩くナイトライフも楽しむのがインバウンド客たちのバケーションスタイル。
かつて外国人観光客で溢れていたストリートも、2022年現在は、国内観光客や地元民すらまばらな様子でした。営業していないお店も多く休業の貼り紙が目立ちます。地元の方から聞いた話によると、「繁華街」だったこのエリアがコロナの影響を一番大きく受けているそう。
「外国人、特にオーストラリア人は飲み歩きたいんです。日本人はホテル直結のゲレンデでスキーを楽しみ、ホテルの温泉に入り、ホテルのビュッフェを食べて、夜はホテルの部屋でリラックスという過ごし方が典型だけど、彼らは『おすすめのBARはどこだ』『パブは近くにあるか』と聞いてくる。ナイトライフを外で楽しむのがオージー流。それで栄えてきた街だから、彼らがいなくなってここ(ヒラフ)が真っ先にしぼんでくるのは納得です」
──地元のショップの方
コロナ初期の頃は、冬場にワーホリなどで働きに来ていた外国人が帰国できなくなり、“コロナ難民”化してしまう騒ぎもありました。あれから帰れた人もいればそのまま住み着いた人もいるようで、今のヒラフで外国人を見かけたとすればそういう人たちだとか。
そういえば以前来たときは、十字街のすぐ横のところにシンガポールのSCグローバル社による新しい建物の工事が始まったところでした。その名も「SETSU NISEKO – 雪ニセコ」。
どうなったのかなと思っていたら、3年の時を経てちゃんと建っていました。こちらは公式のパース画像ですが、まさにこの絵のとおりに。工事着工は2018年10月で、完了は当初の予定だと2022年9月30日でしたが、公式HPを見ると「2022年夏季より営業開始」となっているので少し早まったのかもしれません。
倶知安町にある旭ヶ丘スキー場を訪れると、こんなものを見つけました。「コロナウイルスにより外国人は減ってしまいましたが、」と子どもの字で書かれています。
かつて子どもたちまで認識するほど多くの外国人が来ていた街。今はすっかり様子が変わってしまいましたが、昔に戻ったような小さな田舎町を楽しむ地元民も多いのだそうです。
開発は「宙ぶらりん」状態も、水面下で売買は進んでいる
街は閑散とし、地元の人たち曰く開発は“宙ぶらりん状態”ということです。建設が終わって引き渡しまで完了しているのに、インバウンド客が見込めないため営業開始を見送っているホテルやコンドミニアムも。富裕層が買ったきり一度も訪れて来ない……というお部屋も珍しくないそうです。
ロウワーヒラフをぐるっと回ってみると、屋根雪が積もり今にも潰れてしまいそうな建物がちらほら見られました。誰も出入りも管理もしていない証拠です。別荘街も家主が来なくなりゴーストタウンのようになっていました。
しかしそれでも、不動産売買はむしろ活発になっているというからびっくり。
ニセコエリアは、2027年に高速道路が開通してニセコICができ、さらに2030年には北海道新幹線が倶知安駅まで開通する予定。2030年の札幌オリンピック誘致が成功すれば、ニセコが会場になる可能性も高いなど、未来の話題が目白押し。決まっている外資系ホテルの進出が今後いくつかある安心感もあり、まだまだアツいエリアとして投資が進んでいるようです。
コロナで現地内覧に来られなくても、億単位の物件を見もせずにキャッシュ一括で購入していくそうですよ。次元が違い理解しがたい世界に思えるけれど、彼らがニセコの未来を強く信じていることだけはわかります。
静まり返った町並みの中にも依然としてこのような建設予定のコンドミニアムの看板は見かけます。こちらのCORNICHE HIRAFUという物件、気になってURLを打ち込んで見てみると、何の情報もなくおしゃれな写真だけが佇むWebサイトが出てきました。
https://www.cornichehirafu.com/
まさに水面下で着々と……という感じ。この静かなうねりを見逃してはいけないと思いました。
6人乗りリフトに豪華なゴンドラ。進化したHANAZONOリゾート
地元の人たちが「あのへんが一番変わったよね」と口々に言うのが、ニセコの中でも倶知安町側にある、花園エリア。3年前に訪れたときから「これから花園が変わる」とは聞いていたけど、それが実現していました。
写真の奥にある建物が2020年1月にオープンした「パーク ハイアット ニセコ HANAZONO」。全100室あり、9室のスイートには半露天風呂が付いているそう。
五つ星ホテルのパークハイアットがあるのは、日本では東京と京都のみだったので、それらに次いでニセコとはなかなかすごいことです。
ゲレンデ下中央にある308と書かれたセンターに入ってみると、中も豪華な空間に仕上がっていました。
春も近づく3月の平日、しかもお昼の時間帯はほとんど人がいませんでしたが、レンタルスペースやロッカールームやカフェなど、どこもきれい。
室内キッズパークと託児所もあり、ファミリーでの過ごし方が新しいものになりそうでした。
そこを出ると目の前にあるのが噂のシンフォニーゴンドラ乗り場。
こちらのゴンドラ、座席が分かれた10人乗りインディビジュアルシートになっていて、さらに本革レザーが使用されていることで話題になっています。今回ゴンドラには乗りませんでしたが、音や振動を抑えるダイレクトドライブシステムが搭載されていて乗り心地も最高らしい。
噂の6人掛け横長リフトには乗ってみました!本革レザーでインディビジュアルシートの作りはゴンドラと同じで、さらにヒーティングシステムが搭載されていて座席があったかいらしい。
もちろんリフト乗り場は電子チケットです。
このサイズ感でぐんぐん迫ってくる様子はかなり迫力があり、遊園地のアトラクションを思わせます。
座り心地はとてもよい。包み込まれる感覚で、高級車に乗っているような気分になれます。シートがぽかぽかでフードもしっかりしているので全然寒くない。ヒーティングシートのせいでウェアに付いた雪が解けてびしょびしょになるという評判にはちょっと笑ったけど、とても快適です。
HANAZONOのリフトとゴンドラは、“リフト・ゴンドラ界のフェラーリ”との異名を持つフランスのPOMA社製のもの。従来のスキー場にあるリフト・ゴンドラの上位互換というよりは、もはやこれは「新しい鉄道路線」みたいな位置づけなのだと気づきました。
それを確信させてくれる完成披露式の動画があります。新幹線の路線が開通したかのようなテープカットとセレモニー。まだまだ知らない世界があるのですね。
リフト乗り場の近くには、新しくレストランもオープンしています。ここに入ったとき、少しだけウィスラーを思い出しました。しかしあまり人がいません。いつか賑わうときが来るといいですね。
シンガポール、マレーシア、香港。外国資本で開発されるリゾート
こんなものを見てしまうと、一体どこの会社がどんな経緯で開発しているのか改めて気になってきたので、現地で聞いた話をヒントにひと通りリサーチしてみました。
ニセコには、ニセコHANAZONOリゾート、ニセコ東急 グラン・ヒラフスキー場、ニセコビレッジスキーリゾート、ニセコアンヌプリ国際スキー場、ニセコモイワスキーリゾート、と5つの大きなスキー場があり、管理・開発している会社がそれぞれ異なります。
花園エリアを開発しているのは、香港資本の日本ハーモニー・リゾート。かつては東急が開発していましたが、2004年にオーストラリア資本の会社が買収し、それを2007年に香港大手通信会社のPCCWグループが再買収というか、上からさらに買収して子会社化した形だそう。なんとも複雑な構造。
ニセコビレッジは、マレーシア大手建設コングロマリットYTLコーポレーションが経営。もともとは1982年に西武系の会社とニセコ町が開発を始めたエリアですが、2006年にアメリカの会社へ売却。そして2010年から現在の会社です。2020年12月には、世界で5つめ(日本国内では初)となる「リッツカールトン・リザーブ」というマリオット系最高級のホテルが開業。今後もいくつか富裕層向けホテルの開業を予定しているそう。
ヒラフは東急グループの運営なので、まだ日本資本で生き残っている形です。しかし外資の進出は進み、インターコンチネンタルホテルズグループの最高級ブランドホテル「シックスセンシズホテルズリゾートスパ」が2024~25年頃を目指して準備しています。
アンヌプリも中央バス観光開発株式会社がオーナーなので、日本資本で持ちこたえています。主観ですが、アンヌプリはなんとなく、昔ながらの良さが残されている雰囲気があると感じました。
最近はモイワも開発されていて、外国人によるコンドミニアム建設が進んでいるそうです。モイワの資本は、投資事業会社のチャータードグループ。世界5拠点(日本、シンガポール、ドイツ、タイ、ルクセンブルグ)にスタッフを抱えているとのことですが、どこの国の会社ということになるんでしょうか。
モイワには少し前にLODGE MOIWA834というリゾート型カプセルホテルができ、違う路線にも進みはじめているようです。ニセコ全体が高級リゾート路線で外国人バックパッカーが泊まるような安宿が不足しているので、ここができたことで幅広い観光客を呼び込めるようになっています。
一方でモイワの注目の動きは、アマンリゾーツと組んで2023年に「アマンニセコ」の開業を予定していること!アマンといえば、世界最高級のリゾートですね。モイワのまだ開発されていない山の斜面に、プライベート感溢れるリゾート施設を作る予定だそうです。
日本国内のアマンは、東京、京都、伊勢志摩に続く4箇所目。国内初の“スパ&ウェルネスリゾート施設”になるということで、期待が集まっています。
2030年に向けて目が離せないニセコの発展
コロナ禍でどこもかしこも観光地が苦境に立たされているなか、表向きは閑散としながらも、活気がまったく衰えることないニセコ。
手つかずの自然が切り拓かれてしまうことに抵抗は感じるけれど、人々が自然をダイレクトに感じることができる環境が整い、より豊かに時間を過ごすことができるようになる未来には、少し希望をもっています。日本国内でニセコでしか実現できないリゾートの在り方もあるだろうし、良い意味でモデルケースになってくれたらいいですよね。
外国人が戻るかもしれない2030年頃には、いったいどんなリゾートになっているのでしょうか。新たに出てくるニュースに注目しつつ、これからの動きも追っていきたいと思います。