「スキー場の管理区域外を滑走中に……」
「コース外滑走をしていたスノーボーダーが行方不明となり……」
残念なことに、毎年冬になるとこうしたニュースが後を絶たない。不十分な装備や技術で滑ってしまったケースもある一方、コース外を滑ることを無条件に悪と言い切れるほど単純でもないのがこの世界。
バックカントリー(山スキー)への正しい理解がまだまだ進んでいない日本では、悲しい事故が「自業自得」で片付けられてしまうことも少なくない。しかし海外の雪山では、雪崩をはじめとした自然現象にきちんと向き合い、スキー場も滑り手も一緒に「正しい遊び方」を追求していく空気がある。
コロナの流行により、数十年ぶりにインバウンド客が消えた白馬地域。この2年のうちに日本人たちの滑り方も徐々に変化し、バックカントリーやサイドカントリーの需要が明らかに増え、その影響からスキー場内のコース外への立入りも増加してきたという。そこへ気候変動の影響もあり、歴40年のベテランスキーヤーに「こんな雪崩は見たことがない」と言わせるほどの異常現象も起きている。
こうした状況への危機感から2021年に立ち上がったプロジェクト『白馬雪崩の学び舎』が、シーズン終わりの白馬にて、地域のスキー場利用や雪崩に関する討論会を開催していた。
白馬の山をよく知る24名のプロたちによるフリーセッション型討論会。公式Facebookページに映像アーカイブも残っているが、本記事では当日交わされた会話の内容を傍聴者(一般スノーボーダー)の視点を交えながら紹介する。
※本記事ではパネリストの皆様のプライバシー保護の観点から、個人として参加されたの方のお名前は伏せて掲載しています
森山建吾氏が立ち上げた『白馬雪崩の学び舎』
『白馬雪崩の学び舎』を立ち上げたのは、八方尾根スキー場で雪崩管理責任者を務める森山建吾氏。2014年頃から白馬エリアで雪崩管理に従事し、八方のフリーライディングエリア『おむすび』をオープンさせた張本人でもある。2020年のFreeride World Tour Hakuba開催にあたっては、日本で初めて国立公園内で爆薬を使用した雪崩管理を行った。
21-22ウィンターシーズンに立ち上がり、全5回の「雪崩に関する勉強会」を開催。今のような便利な道具がない時代から山に入られていた先人たちを招き、感覚的な話を聞くことから始めた。その後は天気の読み方やコツ、吹雪のこと、研究者による雪崩の生態学などにテーマを広げ、パトロールやガイドなどさまざまな視点を取り入れることも心がけた。森山さんは『白馬雪崩の学び舎』を立ち上げた経緯をこう話してくれた。
森山さん(『白馬雪崩の学び舎』主催)「白馬なら白馬の、妙高なら妙高の、というふうに、地域によって出る雪崩は違う。また立場が違えば考え方も知識も違い、現場の最前線で活躍している人たちの知見を集めれば、ものすごい量の情報が蓄積できる。この立場の人から見たらこうなんだ、そういう捉え方もあるよね、とみんなでディスカッションできる場が欠けていると思った。地域内で学びあい話し合っていくことが、ゆくゆくは事故防止に繫がり、白馬という地域をよくしていくことになるのではと考えている」
白馬地域のすべてのスキー場が冬営業を終えた2022年5月、今シーズンの活動の集大成として『白馬地域スキー場利用と雪崩の討論会』が開かれた。森山さんの呼びかけで集められたのは、白馬地域のパトロール、滑り手、ガイドなど24名。
初開催ということもあり、議論がまとまらなくなることを避けるため招待制を取ったが、すべての人に対して「入り口はオープンにしておきたい」とライブ配信も行った。
スキー・スノーボード客を抜きにしては語れない地域、白馬。このエリアをより良くしていくため、雪山を知るプロフェッショナルたちが意見をぶつけ合った。
白馬地域スキー場の現在地──気候変動で雪崩にも変化が
国際的なスノーリゾートとして名高い白馬エリアだが、外国人客が来なくなった今、どんな局面を迎えているのだろうか。
日本におけるバックカントリーの歴史はまだまだ浅い。冒頭の森山さんの話によると白馬エリアでは、今から23年ほど前に白馬コルチナスキー場がレクチャー付きで提供し始めたのが先駆けだ。その後、8シーズンほど前に栂池高原スキー場のレクチャー受講式プログラム『TSUGA POW DBD』が開始。栂池に降る極上のパウダースノー“TSUGA POW”を存分に味わってもらおうと、動画講習を受けて合意書にサインすることで入れる非圧雪エリアとしてオープンした。
それからHakuba47でもツリーランエリアなどが徐々にオープン。2019年には白馬八方尾根スキー場でフリーライディングエリア『おむすび』が開放され、五竜スキー場も続くように対応してきたという。
こうして非圧雪エリアを開けてきた背景には、やはり日本特有の上質な「JAPOW(JAPAN+POWDER SNOW)」を狙ってやってくる外国人たちのニーズがあった。しかし彼らが来なくなり、宙ぶらりんなままになっているルールや制度もあるようだ。
ガイドAさん「いつから正式にお客さんをバックカントリーに入れていいのか、ガイドとして毎年戸惑う。まだリフトが上まで動いていないシーズン初め、『バックカントリー禁止』という文言が掲げられていて、スキー場に確認しても返答が曖昧でHP上の情報も整っていない。しっかり決めてもらえれば守る気持ちは十分にあるが、守りたくても守りようがないのが現状」
ガイドBさん「シーズン初め、雪が十分にあってみんな滑っているのに正式に開かないのはもどかしい。手が回っていないのか、理由があって閉めているのか。もう少しわかりやすくしてもらえたらありがたい」
八方パトロール「国立公園内なので、シーズン初めは特にナーバスになってしまう。パトロールの考えを上手く伝えられておらず、スタッフ間でさえ理解が統一されていないことが原因。春になると強風が吹いたりし、そこでもまたいろんな意見が飛び交っている。スキー場として答えが出しづらい部分だが、来シーズンにはオペレーションをはっきりさせたいと思っている」
このように、白か黒かではっきり決められない問題が、白馬スキー場まわりには山積している。海外スキー場のように自己責任でオープンしてしまう考え方もあるが、それは滑り手のレベルやレスキュー制度が追いついて初めてやれること。積雪量とお客さんのニーズありきでオープンして、事故が起きてしまっては取り返しがつかない。
そんな中、白馬エリアのスキー場での滑走コース外への立入りはこの1〜2年で明らかに増えてきたと、会を通して数名が口を揃える。加えて、山を知る人たちの肌感覚では、前例のない雪崩や自然現象が増えているという。気候変動の影響だ。森山さんが「経験則は当てにならない」と言うように、今まで大丈夫だったからというのは、もう何の理由にもならない。
すでにこうした状況がある中、白馬にインバウンド客が戻ってきたら、あまりにも危険すぎる──。パネリストたちが共通して感じる危機感の正体が少しずつ見えてきた。
インバウンド客により無法地帯化?コースを開けることの難しさ
ここで、「スキー場がコースを開ける」ということについて、改めて議論になった。圧雪車が入り整備した斜面だけをコースとしていた昔は簡単だったが、天然のままの非圧雪エリアをスキー場が管理するとなれば、さまざまなハードルが立ちはだかる。かといって、すべて立入り禁止にすればOKという話でもない。たっぷり雪が積もった斜面がそこにある以上、ロープをくぐる人は必ず出てきてしまうからだ。
森山さん(『白馬雪崩の学び舎』主催)「インバウンド客が来ていた頃の白馬は無法地帯だったが、彼らが来なくなって、最初の年はだいぶ状況がよくなったように思えた。パトロールも楽になり、日本人客はやはりマナーがなってるなと。でも昨シーズン頃から場外にシュプール(滑り跡)が見えはじめて、様子がおかしくなってきた。最近ではもうインバウンドが来ていた頃と同じように無法地帯。白馬だけでなく、どこのスキー場でも似たような傾向がある。今シーズンはそれを特に感じて、このままじゃまずいと思っている」
五竜パトロール「今までなら簡単には行かなかった場所に入ってしまう人が増えている。ひとり入れば跡を追ってコースのようになってしまうことも。問題なのは、レベルのおぼつかない人もつられて入ってしまうこと。五竜ではさまざまなレベルのお客さんがいることを考えて、ここから先はスキー場じゃないよと明示するなど、エリアを開放するにしても制限を設けている。少しずつだがトライ&エラーをしているところ」
スキー場の動きが遅いと思われてしまうかもしれないが、新たにコースを開けるのがどれほど難しいことか知ってほしいと、実際に八方のフリーライディングエリア『おむすび』を開けた森山さんは言う。もともと『おむすび』の斜面はコース外だったが、インバウンド客が続々と入るようになってしまった。そうなった以上、スキー場が管理しなければ危険だと、コースとしての開放を目指していった。
八方パトロール「お客さんが滑っている斜面は、そこが楽しいから入っていくわけで、できるだけスキー場としてオープンしたい。規制して捕まえることに躍起になるよりも、最大限開ける努力はしたいと思った。
でもネックになる問題がいろいろとある。ひとつは土地の権利の問題。地権者のOKをもらえるように、プレゼンをして地代を決めて、雪崩が起きたときの責任の所在をはっきりさせて、砂防事務所にも了解を取って。木の伐採の問題もある。ペーパーワークも多く、クリアしなければならない課題が山のようにある」
こんなに大変なプロセスを経てまで、コースとして開ける必要があるのか? スキー場の管理区域外として関与しないという方法もあるのでは? という意見も出てくる。
しかしそうはいかないのが、日本のスキー場らしいところ。管理したうえで閉鎖扱いにすることはできても、「滑ってもいいけど怪我しても知りませんよ」というオペレーションにはやはりできない。開けるのか閉めるのか。スキー場がどちらかを決めるしかないのだ。
スキーコース外立入り増加への向き合い方
白馬ではスキー場のコース外を滑走する人が急増しているとのことだったが、実際のところ各立場からどう見ているのか。栂池や五竜などの八方以外のスキー場、ショップスタッフなど、それぞれの視点からの意見も出た。
栂池パトロール「昔は圧雪されたエリア以外は滑るところではないという認識だった。滑走禁止エリアを滑ればリフト券没収。ときにはシーズン券を没収するなど、厳しい対応をしていた。『TSUGA POW DBD』を開けたのは、やはりインバウンド客の動きがあったから。遊び方は変わってきていて、社会もそれに合わせて適応していく。初年はどうなることかとストレスも大きかったけど、パウダースノーを安全に提供して、滑りたいところを滑ってもらいたいという想いは個人的にもある」
滑り手Aさん「ここ何年かで、そうしたエリアに対する一般スキーヤーの敷居が下がっているように感じるのは事実。昔は入るなんて絶対に考えられなかった場所に、人がたくさん入っている。滑れる人はいいけれど、ターンがままならないような人まで入ってしまう。スキー場は安全にツリーランを楽しめるように整備してくれているが、それでも藪が多いなど自然のままの状態のところもあるため、技術がないと危険だと感じる」
スキー場としても、滑る人に合わせて毎年対応を変えていくことは大変だ。パトロールが都度見ているとはいえ、どこをどのくらいの人が滑ったかを把握するのも難しい。インバウンドが増えればさらに混乱することは目に見えている。
パネリストたちの議論を聞いていると、やはり白馬エリアのスキーヤー・スノーボーダーたちの滑り方は、少し変わってきているようだ。ロープを都合よく解釈し、外に出て行ってしまう人はいる。こうした動きの背景として、YouTubeなどで手軽にバックカントリー映像が見れるようになったことがあるのではと指摘する人もいる。『白馬』と検索すればピンポイントで場所がわかるような映像がヒットする。
テクノロジーの進歩によって情報にアクセスしやすくなったのは良いことだが、映像で見るのと実際に滑るのとは比較にならないほど別物だ。白馬はガイドカンパニーも多く挑戦しやすい環境が整っているとはいえ、知識の乏しい人が真似することがないように、発信者側も意識を高く持つことが求められている。
森山さんによると、スキー場内の整備されていない林の中などコース外の場所を滑走している人たちの内訳を見ると、ローカル(地元白馬の滑り手)やメーカーサポートを受けているライダーが多いという。お手本になるべき彼らが率先してスキー場外を滑り、発信源になってしまっている。それを見た地域外のライダーが白馬のルールを守らずに滑り、地元の人が揶揄するという負のループも生まれている。
ガイドCさん「彼らも何も考えずにロープをくぐっているわけではないはず。さすがに天候や地形を見て、危険性を理解したうえで入っているだろう。そういう人たちにも完全にやめてほしいと思うなら、もう壁を作るしかないんじゃないか」
海外と日本のルールの違い──白馬はどこへ向かうべきか
本当に壁を作って制限するしかないのだろうか? そのやり方は、ダメなものはダメ!と理由も考えさせずにルールで縛り付ける、日本教育のスタイルの現れのようにも思える。自分の頭で判断するための材料を与え、滑り手たちのリテラシーを上げていくことも大事なのではないか。そんなことを考えていたら、ヒントになりそうな海外事例の話になった。
滑り手Bさん「海外では『ここから先は崖だから本当に危ないよ』とわかるような看板が立っている。子供でもわかるような看板。ルールだからダメなのではなく、直感的に危険だということがわかる」
滑り手Cさん「海外で長く滑っていたが、赤か青かだけじゃなく、黄色ゾーンがあった。この先で何かあったら、一応助けに行くことはできるけど、多額の請求が発生するよというゾーン。滑るにはリスクも背負うことになるが、それで成り立っているような部分がある。日本でも、赤か青かだけでなく、黄色を作れないもんなのかなと思っている」
若林先生(雪崩専門家 / 『白馬雪崩の学び舎』顧問)「大昔の1971〜73年にスイスのダボスにいたが、そこでは仕事をするにしてもまずスキー学校に入れられた。上級まで行ったが、まだ山スキーをするには未熟だと言われた。上級のさらに上のレベルが山スキー、という認識。当時はどこのスキー場にも保険屋の啓蒙ビラが張られていて、保険に入らずに滑って救助を呼ぶことになれば、本人に多額の請求がいった。滑る人は、そういう次元のことをしていると理解すべき」
岩岳パトロール「そもそもの話だけど、そうした需要が増えているとは言っても、圧倒的に多いのは一般のスキーヤー・スノーボーダー。彼らをないがしろにしてはいけない。誰もが行けるようになり怪我人が出てニュースになれば、ただでさえ滑走人口が減っているスキーやスノーボードに、さらにマイナスイメージがついてしまう。ビジネスとして白馬のスキー場を考えると、上級者から初級者までバランスよく見ていってほしい」
滑り手Bさん「海外を滑っている人から聞いた話で、リフト券を記名性にして、ネットで登録して個人を特定できる販売の仕方があればいいという意見があった。利用規約に『ロープをくぐった場合の救助にはお金がこれだけかかります』とわかりやすく書いてあれば、チケットを買う前に読み理解した上で滑ることができる」
参考にはなりそうだが、日本人が慣れ親しんでいる使い方や決済方法に、海外方式のIDを作ってチャージするシステムがなじむとは限らない。海外と日本では、スキー場が歩んできた歴史があまりにも違う。一概に海外に倣えばいいわけでもなく、これまでの経緯と歴史を知り、地域にあわせた発展の仕方をイチから考えていく必要がある。
白馬バレーには10箇所のスキー場があるが、スキー場ごとに個性や特長が異なるため、どう折り合いをつけて歩んでいくかが問われている。
スキー場の情報発信は変えていける
システムをすぐに変えるのは難しいが、各スキー場の情報発信の仕方には工夫の余地がある。内部でも情報が錯綜していることが多いスキー場だが、ここは上手い!というスキー場の情報発信方法についての話になった。
ガイドAさん「五竜が早朝5時くらいに上げてくれる情報は非常にためになる。パウダーを滑るガイドとしては、朝起きて一番に気になるのは、何センチ積もったか、雪の質はどうか、リフトは動くかといった情報。Facebookや公式HPを見ているが、時にはタイムラグがあることもある。遠くから来る人も戸惑っているから、タイムリーな発信の仕組みをなんとか構築してほしい」
五竜パトロール「五竜では、山の上に泊まっている宿直者が朝一で情報を発信するようにしている。圧雪車の人と連携し、ゲレンデにどれだけ積もったかという情報をベースに。何時までにと決めて、タイムリーな発信は心がけている」
滑り手Bさん「滑り手としては、白馬のライブカメラを見ている。そこから大まかな情報を得て、さらに各スキー場のFacebookやInstagramを見る。五竜の発信が見やすいなと思うのは、ひとつのInstagramアカウントの中に、パトロールブログが入っていること。八方の場合はスキー場とパトロールのアカウントがそれぞれあるが、統一してくれたほうがユーザーとしては見やすい。こうした整理を白馬バレー全体でやるといいと思う」
白馬バレー全体で統一するとなると、観測方法も統一しなければならない。12時間で取るのか、24時間で取るのか、総積雪量にしてしまうのか。測り方によって差が出てしまっては意味がない。さらに、スキー場によっては降雪板やライブカメラを置くところがなく、測れる場所が限られているなど、現実的な問題にも直面している。
時間はかかるかもしれないが、インバウンド客を見据えた多言語化も含め、情報発信の仕方はすぐに手をつけられる課題なのかもしれない。このあと議論は、ゴンドラやリフトの運用や、登山ゲートを設けること、駐車場を作ることといった話にまで及び、約2時間で会はお開きとなった。
日本にも正しく遊ぶための「学びの場」を
今回のテーマは、難しくセンシティブで、発信してよいものか悩む話題も少なからずあった。実際、会の中盤で一度ライブ配信がミュートになり、配信されなかった会話が繰り広げられていたのも事実。人の命に関わる議論だけに、慎重になるのも当然だ。
最後に、プロスノーボーダーの小松吾郎さんから考えさせられる発言があった。
小松さん「今、新しくコースが開いたりして、白馬をどうしていこうかという地点にいると思うが、地形的にも危ないなと思うことが多々ある。外国人が行っちゃうからという理由で開けてしまって事故が増えることは、スキー場も滑り手も誰も望んでいない。
自分は90年代からスノーボードをして、自然の雪山やバックカントリーの魅力を発信してきた側だけど、それは大変なことをしているんだという認識も持っている。結局、自分がやっているのはロープの切れ目をくぐることで、肯定される行為ではないかもしれない。ただその中でも、なるべくスキー場や他人に迷惑がかからないように、楽しさと同時にリスクがあることも発信してきたし、一緒に行く人も選別している。それでも誰かがどこかで事故にあうと、少なからず責任は感じている。
そうしてきて今思うのは、ニーズがあるから開けるというのは違うということ。カナダで滑ってきて日本も滑って、一番大きな違いと感じるのは、滑る人自身が事故にあわないためのスキルを身につけるという考え方が、日本には欠けているということ。
スキー場のルールが広まったりガイドカンパニーが増えたりすることも大事だが、日本には雪崩にあわないためにどう行動すればいいか、事故を防ぐにはどんな知識があればいいか、学べる場所がほとんどない。いきなり新しくエリアがオープンしても、そこを滑るまでのステップが踏めるようになっていないと、危険なことに変わりない。
カナダでは子供に教えるときに、歩き方の練習などはそこそこに、1日目から滑らせて2日目にはゆるいツリーランを滑る。いろんな地形やエリアを滑らせ、成長していくステップが用意されている。いきなり最上級コース開けましたではなく、初級・中級のツリーランも並行して増えてほしい。学びながら徐々に楽しみ方を覚えていく流れや常識もできていったらいいと思う」
このまま進むと、ステップアップする仕組みや救助体制などの用意もないまま、ただ最上級コースが開いてしまう。森山さんがまさに危惧していることを小松さんが代弁する形で、今回の場は締めくくられた。
小松さんの言う「学べる場所」を作ろうと立ち上がったのが、まさに今回の主催『白馬雪崩の学び舎』だ。みんなが持つ知識・技術・経験を持ち寄ることで、地域としての知を高めていこうと全5回の勉強会を開催した。今シーズンはコロナの影響でオンライン開催が中心となったが、本来は現地で集い、対話しながら共に学んでいける場作りを目指している。シーズン中に集まれなかったぶん、意見を言い合える場を最後に設けようと、今回の討論会の開催となった。
スキー場の営業も終わり、21-22シーズンの『白馬雪崩の学び舎』の活動は一旦これをもってひと区切り。今後は第1〜5回の動画をオンラインで配信するなど、学びを絶やさないようオフシーズンも動き続ける。今回のパネリストたちに講師としての参加も含めて声をかけるなど、積極的に呼びかけを行っていく。
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『白馬雪崩の学び舎』は普段、Facebookページやブログなどで情報発信をされています。ぜひフォローして引き続き活動を追ってみてください。
Facebookページ『白馬雪崩の学び舎』 https://www.facebook.com/nadaremanabiya
ブログ『雪崩と生きる』 https://forestmountain.blog/
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【編集後記】
今回、討論会の様子を取材・掲載したいという直前の依頼だったにもかかわらず、森山さんは快くOKしてくれました。デリケートな内容だけに、記事として残る怖さもあったと思います。「取り上げていただくことで事故防止に繋がるなら」と、パネリストへの報告や表現調整などにお力添えくださった森山さんに、感謝を申し上げたいと思います。
毎年ニュースになる雪山での事故。私自身も「そんなところを滑るのが悪い」といった無慈悲な批判に、いつも心を痛めています。今回の話は、スキーやスノーボードを一度でも楽しんだことのあるすべての日本人に知ってほしいこと。遊びに本気な大人たちが、白馬にいる。彼らの思考や活動を伝えたくて取材をオファーさせていただきました。
日本の雪は、世界レベルで見ても素晴らしい。JAPOWは我が国が誇る最強の天然資源です。来シーズンどれだけインバウンド客が戻って来るかはまだ読めませんが、ここ日本でしかできない雪山での遊び方が、白馬という地域から、より健全に発展していくことを願っています。
取材・文・撮影 @ryokown